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その言葉の真意を今更ながら知った。
「はは、ははは、狂ってる。全く狂ってるよ。いいさ。仮にそうだとしよう。でも俺は実際に存在してる。この身体が何よりの」
芳雄は自身の身体を見た。
何だか手足がぼやっとして、感覚が鈍くなってきているような気がした。
そこで、恵美子が声を出して泣いた。
重幸の目も充血している。
「ああ。そうだ。お前の存在自体が嘘なんだ。すまない。すまない」
重幸の目からも涙が溢れてきた。
指を組んで俯いた。
「何だよ、これ」
芳雄の指、腕、胴、脚、身体のあらゆるところが透けてきた。
芳雄の視界もぼやけてきた。
「おい!どう言うことだ!説明しろ。説明しろおおおおおおお」
叫び、喚く芳雄だが、その声はすでに重幸と恵美子には届いていなかった。
恵美子は嗚咽するほど泣いた。
重幸はその場で俯いたまま、動こうとはしなかった。
「う、そ・・・・・・ろ」
やがて芳雄の姿は見えなくなった。
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