消滅

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「井上くん、この間頼んだ資料は?」 今日も慌ただしく、山岡はパソコンのキーボードを打つ。 「はい。これです」 井上は即座にまとめた資料を山岡に手渡した。 「ありがとう」 井上はニッコリと笑いかけて、デスクに戻ろうとする。 馬鹿め、山岡。それは頼まれていた資料なんかじゃない。俺の結婚式の見積もりだ。 馬鹿か。お前が結婚する予定なんかないことぐらい知っている。 相変わらずの風景。 「おーい、稲垣くん。・・・・・・あれ?稲垣くーん。休みか?」 「課長、誰のこと呼んでるんですか?」 「え?だって、そこの空きデスク・・・・・・」 山岡は考え込んだ。 稲垣。稲垣。 「かっちょーぅ。冗談やめてくださいよ。何かやばいもの見えてるんですか?」 部下がからかい気味に言った。 「嘘、嘘。さあ、仕事仕事」 山岡は再びキーボードを叩き始めた。
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