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「うそでえええええす」
飯田は目を大きく見開き、舌を出して揶揄うような顔をした。
「は?」
「す、すみません。今朝すれ違ったときから、嘘つこうって思ってたんです。もっと分かりにくい嘘がよかったですよね」
彼女が言っていることを芳雄が理解するのに、30秒はかかっただろう。
「なんで、なんで?」
言葉が出ずに反復した。
「いや、だから嘘つくって決めてたんです。初めから。てか、私彼氏いますし」
何故かキレ気味で話す飯田を、芳雄はただただ呆然と見ているだけだった。
「ご迷惑をおかけしました。失礼します」
最後はぶっきらぼうに、言葉を残して飯田は去っていった。
大粒の涙が流れた。
こういった嘘はいけない。
生まれてこの方、彼女が1人もいなかったわけではない。
ただ、この手の嘘は初めてだった。
虚しさ、怒り、寂しさ、あらゆる感情がひしめいて、芳雄の胸を締め付けた。
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