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「いい加減にしろ。何を隠してる。さあ、早く吐いてくれ」
荒ぶる息子に戸惑いを隠せなくなった両親は、お互いに目配せをした。
重幸はかぶりを振った。
それが火に油を注いだ。
芳雄はテーブルの上に残っていた食器を、払い落とした。
鼓膜を刺すような、鋭い音が家中に響き渡った。
「わ、わかった。よせ。話す、話すから」
重幸も思わず立ち上がり、手のひらを芳雄に向けた。
芳雄の呼吸が荒れており、顔も真っ赤であった。
「い、いいか。落ち着いてよく聞け」
重幸の喉仏が大きく上下した。
「芳雄、お前は、お前は・・・・・・」
芳雄は、まさか自分の名前が出てくるなんて思ってもみなかった。
大きく目を見開き、耳を澄ました。
「俺たちの子じゃあないんだ」
またもや時が止まったように互いを見つめあった。
「俺は、俺は、よ、養子ってことか?」
展開としては、大体そういうとこだろうと予想はついていたものの、返答を聞くのはやはり怖かった。
「いや」
この答えも想定内だ。
「血も繋がってないし、戸籍上も稲垣家の人間じゃないってことか」
「いや」
芳雄の声は止まった。
ここでも否定されるとは、思わなかった。
「何なんだ」
その先にどのような答えがあるのか、むしろ興味が出てきた。
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