嘘と惚れ薬と婚約破棄

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 手の中にあるのはガラスの小瓶。  中身は惚れ薬です。惚れ薬。  ――この薬を王子に盛るの。そうすれば王子はあなたの虜になって、衆人環視の夜会でここぞとばかりに婚約者の公爵令嬢と婚約破棄を宣言する。そしてあなたを妃にと望むわ。絶対に。  ぱっとしない男爵令嬢が成り上るにはそれしかないと、母がいかがわしい魔法使いから大枚をはたいて入手してきてしまいました。 (ん~~~~、甘いと思うのですよ母上様。悪役令嬢物語の読み過ぎです。王太子と公爵令嬢の婚約なんて、国の政治レベルの話であって、恋愛の入り込む余地などないはずです。たとえ殿下が人前で「婚約を破棄したい!」なんて口走っても「御乱心」「気の迷い」「はっはっは、御戯れを」って、いつも殿下のそばに学友の名目でうろついているお目付け役たちがひねりつぶすに決まっています。絶対に)  王太子アーノルド様は、黒髪黒瞳の細マッチョ。性格は大らかで細かいことを気にしないタイプ。悪戯好きの悪童がそのまま青年になったような茶目っ気があり、少し危なっかしい。  王宮サイドもそのことはよくご存じのようで、同年代の多く集う学び舎においては、由緒正しき家柄の貴族の青年たちが常に周りを取り囲み、何かと目を光らせている。もちろんそれは、女性関係においても例外はなく。  同じ学校で机を並べて学んでいるとはいえ、これ幸いと殿下に近づき、色目を使うような令嬢はことごとく排除されてきました。  その厳戒態勢をかいくぐり、なぜ一介の男爵令嬢如きが王子に接近してその皿やコップに一服盛れるというのか。惚れ薬計画は、そこからしてすでに破綻している。  とは、いうものの。 「レベッカ、おはよう。今日も可愛いね」  卒業間近の学院にて、朝の教室。  背後に咲き誇る薔薇を背負って現れたのは、公爵令嬢のジャスティーン様。
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