嘘と惚れ薬と婚約破棄

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(無理がありますって。世の悪役令嬢物語に出て来る王子たちはこぞって婚約破棄をしますし、ぱっとしない男爵令嬢に惚れ込んだりしますけど、お母様の目は節穴ですか。だいたいにして正ヒロインは婚約破棄される「悪役令嬢」ですし、ぱっとしない男爵令嬢の役どころといえば当て馬ザマァ要員ですよ。このまま私がもし奇跡に奇跡を重ねて惚れ薬を盛って王子を一時的に振り向かせたとしても、絶ッッッ対にザマァされて流刑・投獄・拷問・死刑・奴隷落ちといっためくるめく断罪ルートですよ。無理)  そもそも、別に王妃の座に魅力を感じていません。アーノルド様は見目麗しい青年だとはわかるものの、恋心を抱いたことはないのです。  ジャスティーン様との友情の方が、何千倍も尊い。  もし二人がこのまま順調に結婚する運びになった場合、私はジャスティーン様を思って枕を涙で濡らす自信がある。今でさえ身分差があるのに、王妃様になったら手が届かないな、という意味で。 「レベッカ。私の気のせいでなければ、最近何か悩んでいない?」  甘い響きのハスキーボイスで、ジャスティーン様が囁くように尋ねてきました。  冴え冴えとした紺碧の瞳が、心配そうに細められている。心の奥底まで見通すかのような瞳。 (ジャスティーン様を裏切るなんて、とんでもない)  手の中にガラスの小瓶を握りしめていた私は、思い余って母の企てを打ち明けることにしました。  * * * 「惚れ薬、惚れ薬。ふぅん。惚れ薬ね」  内容が内容だけに、教室の授業の後、人目をはばかって馬場の隅の木陰で打ち明けました。ひひーん、という馬のいななきや蹄の音が響き渡っているものの、見晴らしはよく近くに人が潜んでいるということもない。
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