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中学1年・秋
「沢木、俺追試クリアした!」
「さーわーきー、英語得意だろ? ここ教えてくれよ。」
「今度試合あるんだ。沢木、美術部で横断幕作ってくれ!」
晴田は人懐っこい性格だった。明るい性格で分け隔てなく人と接する晴田はクラスの人気者だった。私のような目立たない人にも気楽に話しかけてくる。
私もいつの間にか晴田のペースに飲まれ、気がつけば出来上がった横断幕を試合会場の客席の柵に取り付けていた。
”不撓不屈”と書かれた大きな布に私たち美術部が色付けし、美術部のみんなと完成した横断幕を取り付ける。普段目立った活動がないみんなも、大きな依頼に楽しそうに作っていた。
「沢木ー! いいじゃん、それ!」
グラウンドから私がいる客席に向かって晴田が叫んだ。私もみんなと作った物を褒められて嬉しくなり、柄にもなく晴田に向けて声を張る。
「でしょ! 晴田も試合、負けないでよね!」
「任せとけー!!」
晴田は拳を作り、自分の胸を叩く。私はこれからみんなと試合を観戦する予定だった。青いユニフォームを着る晴田が一際輝いて見えた。
***
晴田は幼稚園の頃からサッカーをしていて、同学年の中でも群を抜いていると誰かが噂で言っていた。今日は地域の中学校との練習試合で、1年生がメインで試合に出ると晴田から聞いてはいたが、晴田の実力は素人の私から見てもすごかった。
ボールを蹴った瞬間、晴田は人が変わったようにグラウンドを走った。晴田が通った芝生は激しく舞い上がり、敵からの攻撃ももろともしない。
応援にきていたクラスメイトもついでに見ていた美術部の部員も、みんなが駿馬のごとく走る晴田に釘付けだった。
最後に晴田から力強く蹴られたボールは、吸い込まれるようにゴールに入った。
観客からは喝采が起こり、女子の甲高い声が響く。興奮して抱き合っている人もいた。
そんな中、私は晴田から目が離せなかった。あんなにまっすぐと射抜くような視線でゴールを見る晴田を見たことがない。
晴田は部員たちと喜びを分かち合ったあと、観客にいる私たちに手を振る。そして最後に私に向かって親指を立てた。
私も同じように親指を立てて答えるが、心臓がドキドキと全身を打つように激しかった。試合の熱に浮かされて興奮しているだけではないと私はすぐにわかった。
私は、晴田のことが好きになった。
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