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「ねぇ、あなたの名前。教えて」
桜が降る中学校入学式。
風に揺れる髪の毛を押さえながらその子は俺に尋ねた。
その時の俺はどういう顔をしていたのだろうか。
「……晴って呼んで」
その日その子はずっと俺の後ろをついてまわった。鬱陶しくはなかった。そういうことをしても絵になるって可愛い女の子って得だな、とすら思った。
けれど、入学式から1週間後。
登校し、自分の席に座った時だった。
「あ、おはよう」
その子は俺に気づくとズンズンと俺に近づいた。
「ねえ、晴くんの小学校の同級生から聞いたけど。あなた◼️◼️◼️って本当? 私を騙していたの!?」
そしてその子は俺を睨みつけた。
「ウソツキ」
ポーン。
ハッと目を覚ますと丁度飛行機がG空港に着陸したところだった。
今のはシートベルト着用解除のサイン音だったらしい。
嫌な夢を見た。
俺は目を擦ると、席を立った。
数年ぶりの空港は、前より少し老朽化が目立っている様に感じる。
壁には旅人達が付けた傷が増えていた。
空港から駅に向かうリムジンバスは平日なのにチラホラと乗客が乗り込む。
スーツケースを引いたサラリーマン。イヤホンをつけた若い男性、流行服を着た女性。
俺はバスの一番後ろの席に座ると窓ガラスにもたれかかった。
微かな振動と共にバスが発車した。
G空港は山奥にあるため、窓の外は木々が立ち並んでいる。さながらボーリングのピンのようだ。
それを見ていると早く東京に帰って康二達とボーリングがしたくなる。
時計を見るとまだ9時だった。
朝早くに叩き起こされたせいでまだ眠い。
睡魔に襲われ俺は目を閉じた。
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