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「お母さん、大丈夫? 今、お医者さん呼んでくる」
姉ちゃんは廊下へ駆け出した。
父さんは近づいて母さん手を握りしめた。
俺はというと何も言わずにただ母さんを見ていた。
「母さん、晴が来てくれたよ」
「貴晴……」
ピッピッと心電図が規則正しい音を奏でる。
母さんはぼんやりと俺を見た。
俺は唾を飲み込む。
「……なんなの、その格好。まるで、女の子、みたい。それに、どう言うこと? 貴方、彼氏が、いるの?」
母さんの目が、徐々に力が宿っていく。
「母さん、今はそんな話どうでもいいじゃないか」
父さんは必死に宥めるが、母さんは違った。
どこからそんな力が湧くのだろうか、という病人とは思えない血走った眼で俺を見た。
「貴晴。貴方は、巽家の跡取り。同性の、男の人と付き合う、なんて。お母さん、許さないからね」
「母さん」
父さんが口を挟むが取り付く島がない
「お母さん、はね、死んだ、おばあちゃんから、ずっと、言われ続けたの。血は、絶やさないでって。なのに、なのに貴方は、どうして……」
そう言ってまた、母さんは力が抜けたようにウトウトし始めた。
父さんは悲しそうに母さんに寄り添うと、俺を見て静かに首を横に振った。
「……じゃあな、母さん、父さん」
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