イ ツ ワ リ

12/19
前へ
/19ページ
次へ
「お母さん、大丈夫? 今、お医者さん呼んでくる」  姉ちゃんは廊下へ駆け出した。  父さんは近づいて母さん手を握りしめた。  俺はというと何も言わずにただ母さんを見ていた。 「母さん、晴が来てくれたよ」 「貴晴……」  ピッピッと心電図が規則正しい音を奏でる。  母さんはぼんやりと俺を見た。  俺は唾を飲み込む。 「……なんなの、その格好。まるで、女の子、みたい。それに、どう言うこと? 貴方、彼氏が、いるの?」  母さんの目が、徐々に力が宿っていく。 「母さん、今はそんな話どうでもいいじゃないか」  父さんは必死に宥めるが、母さんは違った。  どこからそんな力が湧くのだろうか、という病人とは思えない血走った眼で俺を見た。 「貴晴。貴方は、巽家の跡取り。同性の、男の人と付き合う、なんて。お母さん、許さないからね」 「母さん」  父さんが口を挟むが取り付く島がない 「お母さん、はね、死んだ、おばあちゃんから、ずっと、言われ続けたの。血は、絶やさないでって。なのに、なのに貴方は、どうして……」  そう言ってまた、母さんは力が抜けたようにウトウトし始めた。  父さんは悲しそうに母さんに寄り添うと、俺を見て静かに首を横に振った。 「……じゃあな、母さん、父さん」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加