イ ツ ワ リ

3/19
前へ
/19ページ
次へ
 巽家(我が家)で父さんという人は、婆ちゃんや母さんが言う「跡取り」のはずだったが、なんの因果か、あまりを言わない人だった。そんな父さんを婆ちゃんや、婆ちゃんに洗脳された母さんは「情けない」とよく言っていた。  ある日のことだった。リビングには父さんと俺の二人きり。母さんは美容院へ姉ちゃんは図書館へ行っていた。  新聞を読んでいた父さんが唐突に口を開いた。 「晴。お前、もう中学3年生だよな。この先どうするんだ?」 「は? 何が?」  これだからオヤジ殿は。昭和の男よろしく無口で、言葉が少ない。 「その……このままじゃまずいだろう。お前が家から離れたいなら。全寮制の高校に行きたかったら、金を出すぞ」  父さんは新聞を畳むと俺を見た。 「晴。父さんが悪かった。死んだお袋のせいでノイローゼになった母さんを守りきる事ができなかった」 「それでこの数年見て見ぬ振りかよ」 「すまない、晴」  ドク、ドクと心臓が鳴る。  頭が熱い。  頭の中の血が逆流するようだ。  俺は力いっぱい怒鳴った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加