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巽家で父さんという人は、婆ちゃんや母さんが言う「跡取り」のはずだったが、なんの因果か、あまりそう言うことを言わない人だった。そんな父さんを婆ちゃんや、婆ちゃんに洗脳された母さんは「情けない」とよく言っていた。
ある日のことだった。リビングには父さんと俺の二人きり。母さんは美容院へ姉ちゃんは図書館へ行っていた。
新聞を読んでいた父さんが唐突に口を開いた。
「晴。お前、もう中学3年生だよな。この先どうするんだ?」
「は? 何が?」
これだからオヤジ殿は。昭和の男よろしく無口で、言葉が少ない。
「その……このままじゃまずいだろう。お前が家から離れたいなら。全寮制の高校に行きたかったら、金を出すぞ」
父さんは新聞を畳むと俺を見た。
「晴。父さんが悪かった。死んだお袋のせいでノイローゼになった母さんを守りきる事ができなかった」
「それでこの数年見て見ぬ振りかよ」
「すまない、晴」
ドク、ドクと心臓が鳴る。
頭が熱い。
頭の中の血が逆流するようだ。
俺は力いっぱい怒鳴った。
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