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初めて見る東京は、県庁所在地なんか目じゃ無いくらい別世界だった。
そびえ立つビル群。それを縫うように走る電車、モノレール。背負ったお気に入りのカーキ色のリュックの重さも忘れて俺ははしゃいだ。
「でっけぇ。何階建てだ!?」
「晴」
「あれが噂の億ションかよ。さすが東京だな。あんな家がゴロゴロしてやがる」
「晴」
「んだよ」
康二は急に俺の髪をわしゃわしゃさせた。
「な、んだよ急に」
「俺たちもう大学生だ。ほぼ大人だよな。だから直した方がいいぞ。それ」
あん? と思いつつ俺は服を見た。
今日は、というか、今日も俺は母さんが見繕って宅急便で送ってきた洋服を着ていた。
グレーのパーカーにジーンズ。
当たり障りのない、標準的なファッションを着せる事を母さんは好んだ。
俺はと言うと洋服なんかどれも同じに見えて、オシャレに興味が湧かなかった。
「これそんなに変か?」
俺はパーカーの胸元をパタパタさせた。
康二は苦笑いした。
「服のことだけじゃなくて。……そうだ、渋谷に行かないか? 今からお前の服を買いに行こう」
「今からかよ!? まだ新居にも着いてないのに」
そんな俺の手を康二は握った。
「ここにはもう、呪いなんて物は無いんだよ、晴。俺が魔法使いになってやる」
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