エピソード2.死の迷走

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 死して尚、無念の想いは強く残り迷える魂が不浄と化し妄想セカイを作りデスドアに幾多も存在する。  荒涼とした斑(まだら)の大地が広がり暗く、光もない死者が辿り着く最後の場所。  金属同士が激しく擦れ合い、甲高い音と重厚な音が混ざり合う。  空気が一気に抜ける音が鳴り響く。  耳をつんざくような轟音にシュクレンは思わず身を竦めた。  目の前には眩しい光を放ち大きなトラックが止まっていた。ディーゼルの重厚なエンジン音がビリビリと肌に伝わる。  トラックの窓が開き大きな男が不機嫌そうに顔を出す。 「おい!道路の真ん中で何やってんだ!!死にてぇのか!?」  男の野太い声が闇夜に響く。男自身も驚いたせいで無理矢理声を張り上げていた。 「あの…ごめんなさい…」  シュクレンは謝るとすぐに道路の端に寄る。 「女…じゃねぇか…おい、こんな山の中をなんで一人で歩いてるんだ!?」 「…わからない…」 「なぁ、良かったら乗りな!街まで送ってやらぁ!」  男は手招きをすると雑多に散らかった助手席を片付け始める。 「……」  シュクレンは首を横に振る。  この男からあまりいい感じがしなかったからだ。  浅黒い顔を包むように濃く生えた不精髭に強面が先程の怒鳴り声と相成って警戒心を抱かせるには十分だったのだ。 「おい、この辺には熊が出るんだぜ!こんな夜中に一人で歩いてたら食われちまう。いいのか?他に幽霊とかなぁ…!」 「…熊…幽霊…怖い…」  シュクレンの顔がみるみる青冷め身を屈め肩を抱え込む。 「ほら、乗りな!こんな場所を女が一人で歩くもんじゃねぇよ」  初めて男が白い歯を覗かせ笑顔を見せる。  意外な程に優しげな笑顔に警戒心が和らぎトラックの助手席に乗り込んだ。  ドアを閉めるとアイドルか何かの陽気な音楽が流れていた。 「…音楽…?…珍しい…」  シュクレンが耳をつまむ。 「おいおい、音楽聴かないのかよ!これは今流行りのABK4989だぜ!」 「…エービーケーシクハック?」 「ああ、“あんた貧乏キツいわ四苦八苦”の略だよ!みんな貧乏出身アイドルでな。苦境、逆境に負けずに頑張ってる姿が萌えるんだよな!」 「…モエル?…」  首を傾げてぼんやりと前を見ていた。  男はシュクレンの顔を見る。髪は銀色に輝き、包み込む顔は白磁のように色白でなかなか端正な顔立ちだった。  瞳は蒼く男はその異端な姿にゴクリと唾を飲む。 (まさか本当の幽霊じゃねぇよな…?)  一瞬そう考えシュクレンの足を見るときちんと爪先まであったので安心した。 「まぁ、その…あんた名前は?」 「…シュクレン」 「お、外人か!?どうりで髪や目が…身なりが変わっていると思ったぜ!俺は純一郎!よろしくな!」 「うん…ありがとう。純一郎」  トラックはゆっくり動き出した。
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