エピソード1.死神の棲む街

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「随分揺れる船だな!平衡感覚(へいこうかんかく)は大丈夫か?圧倒的に死神野郎の方が有利な状況だ。だが、それはいつもの事だろ?お前はいつものように戦い、勝利するだけだ!!」  シュクレンの持つ大鎌が禍々しく黒光りする。死神はゆらゆらと陽炎のように歪んでいるが、その手には大きな手鉤が握られている。 「ごめんね…ごめんね…」  死神は何度も謝罪の言葉を繰り返しながらもその表情まで窺い知ることはできない。互いの距離が近付き刃と刃が激しくぶつかる。  鋭い光の火花を散らし、何度も重ね合わせる。 「贖罪(しょくざい)、未練、恨み、辛み、苦しみ、それらの想いを全て断ち切れ!シュクレン!」  シュクレンの大鎌が死神の腹部を捉えた。体が“く”の字に折れ曲がり体勢が乱れるが切断には至らない。 「ちぃっ!まだ弱い!入りが浅いぞ!お前の心の迷いが刃を鈍らせるんだ!本来なら今ので勝負は決まってたぜ!」  一歩踏み込み追撃を加えようとする。しかし、死神の目が一瞬ギラリと光る。 「危ねぇっ!!」  クロウの叫びに思わず体が硬直し身を仰け反らせる。その顎先を死神の手鉤(てかぎ)が掠めた。 「…くっ、はぁ…!」  床を蹴り死神から離れる。一瞬目眩が起きる。顎先から血が滴り落ちる。 「相手に迷いはない。自分のセカイを守るために必死なんだよ!お前が得体の知れない優しさや同情なんか見せようが相手は容赦しない。逆にそこが大きな隙になる。だからお前も迷う必要はない。目の前にいる敵をたたっ斬るだけだ!」 「うん…わかった」  波に揺られ大きく船が傾いた。冷たい波飛沫が全身にふりかかる。 「…冷たい…」  濡れた服が肌にまとわりついて重くなる。そして針のように突き刺さる冷たさがじわりじわりと体力を奪う。  死神が素早く踏み込みシュクレンの腹部に手鉤を叩きつける。体が吹き飛び床を転がる。 「…痛!」 「しっかりしろ!今のは見えていたはずだ!装束に守られていて良かったな!体に傷は付かなかったろう?俺様とお前は一心同体だ。攻撃、防御への振り分けは俺様がやってやる。お前は奴を倒すことに専念しろ!」  クロウの言葉にシュクレンは頷く。大鎌を握る手に力が込められ跳躍と共に間合いを詰め一気に振り抜く。  死神の身体に鎌が突き刺さるとその衝撃で吹き飛び甲板の端に倒れた。 「ごめんね…ごめんね…」  死神はそれでも謝罪の言葉を繰り返す。駆け寄り追撃に出る。 「!?」  大鎌を振り下ろした瞬間何かに体が吸い寄せられるように引っ張られた。急激に床から足が離れ逆さまになって引っ張りあげられた。  足に痛みを感じて見ると網が絡みついていた。それがウインチにより巻き上げられて逆さ吊りとなったのだ。 「…う…あ…」 「くそ!この船全てが奴の意のままか!!」  船の揺れと相成り激しく視界が揺れる。 「シュクレン!なんとか縄を切って脱出するんだ!」  死神がシュクレンに斬りかかる。逆さ吊りのまま大鎌で応戦するが手鉤と大鎌では速さの分が悪く、徐々に死神の手鉤の動きが早くなる。 「足が…」 「ちっ!縄を切る暇もないか!このままじゃやられるがままだぜ!シュクレン!体を振って動きに変化をつけるんだ!」  体を揺らし反動をつけ振り子のように動く。死神に近付く瞬間に攻撃を加え、その反動を利用して離れる。何度か繰り返すうちに死神が先手を打つように構える。  すると床に大鎌を突き刺し急制動をかけ死神の手鉤が空振りに終わる。  そして、大鎌を水平に振り死神の首を跳ねた。 「やったぞ!!」  クロウが歓喜の声を上げる。 死神の頭部が床に落ちて転がるが空気に溶けていくように消えた。 「な、なんだと!?おい!シュクレン!消えたぞ!?」  首を跳ねたはずの死神が目の前に立っていた。  
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