どうかしている文芸部

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文芸部が大人しいというのは偏見だ。過去廃部になったが最近復活したこの文芸部は、今日も活発に活動が行われていた。 部長の斉藤桂(かつら)はキラキラカバーのついたスマホを見ながら叫ぶ。 「今日も千歳の小説がエモい!」 彼女は文芸部だけで素に戻る。しっとりした美貌と丸みを帯びた体つきは高校一年生には見えない大人っぽさがあるのに、叫ぶ内容がどうにも子供っぽい。 普段クラスであまり喋らずただ微笑んで、大人びた生徒を演じている桂だが、それは作られた仮面だ。 文芸部の部室には長椅子とパイプ椅子、あとは本棚のみの空間だが、墨汁で書かれた文字がかかっている。 ・趣味に素直になること ・趣味を人におしつけないこと ・人の趣味をけなさないこと 文芸部三か条である。その流れるような文字に従い、桂は素直に小説を読んだ感想を叫んだのだ。 「エモいよ。ああほんとエモい。最後の方がとくにエモい」 文芸部とは思えないほどの語彙の貧困さだ。桂はこの部の部長で誰よりも本を読んでいるはずなのに、副部長と部員は苦笑する。 「いや桂さん、エモい以外の言葉も使おうよ。千歳さんの小説がいいものすぎて、とっさにいい感想が出ないのもわかるけど」 男子部員の真柴なずなもスマホを見ながら喋る。見ているのは副部長、千歳がウェブ上に公開している短編小説だ。友人と共に過ごす夏の日を切り取った内容で、現在真冬の二月だがまるでもう夏が来たかのような気分になる。 「すごいね。僕、あまり汗をかかない体質なんだけど、これ読んでると汗かきな自分になる」 桂よりはましな感想をなずなは口にした。彼は小柄で細身で、人形のような整った作りの顔をしているがメガネでそれを隠している。そういえば彼は夏でも長袖だ。そんな彼でも夏の日差しを即座に思い浮かべてしまうような内容だった。 「異世界転生もしないし、とくに大きな事件も起きないんだけど……」 「そこがいいの!」 作者である鶴見千歳は照れたように笑い謙遜をする。それに桂となずなは同時に首を振った。現在文芸部として、書く側となるのは千歳だけだ。なので発表はウェブ上の投稿サイトにして、それを部員達に読んでもらっているのだが、その投稿サイトは周りが異世界転生だらけなので、日常を切り取ったような小説に自信が持てないのだろう。 「ありがとう。二人にそう言ってもらえると自信がつくよ」 千歳は明るい笑顔が眩しい、小鹿のような少女だった。髪はさらさらまっすぐで、小柄で華奢。だけどバレエをやっていたという手足はか細くもしっかりした印象がある。そして人当たりも良く男女問わず慕われているという。偏見だが文芸部らしくない子だとなずなも思う
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