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放心状態のなずながよろよろと保健室の自販機へ向かう。その消耗によっぽど千歳の事が好きなんだなと考えながら、嵐は自販機に硬貨を入れた。
「悪かったな。多分今頃、ナズは桂とエロトークしてただろうに」
「うん。……けどちょっとついていけなかった頃だったから、助かった」
「うちの妹が本当にすまない」
紙パックのドリンクを二つ購入する。二人ともカフェオレだった。
「実はさ、今日俺、供給が多すぎてさ、ちょっと誰かと話したかったんだ」
「供給?」
「今日、桂が千歳ちゃんにエロ小説書かせたいがために教えるって言ったのマジか?」
嵐はなずなの両肩をつかみ、正面から尋ねた。その顔は真顔で迫力がある。
「他にも千歳ちゃんが桂を『かわいい』って言ったり! 今日千歳✕桂すごい飛んでね?」
「そんな花粉みたいに言うなよ……」
「千歳ちゃんが隣にいるからニヤけたりするの隠すの大変だった……! いま落ち着きたいから千歳ちゃんと距離置けてホッとしてる!」
「……まあ、わからんでもない気持ちだけど」
「だよな! 百合っていいよな!」
嵐は女性同士の恋愛に強い関心を持っていた。そして激しい供給があるとそれを唯一話せる相手であるなずなに報告する癖がある。なずなも思い当たる事があるので否定はしない。供給があれば気分が高揚してなんでもできそうになるし、その感覚を仲間と共有したい。
「一見大人びてるけどピュアな桂と、一見無垢な美少女だけどとんでもなく懐深い千歳ちゃん。こんな心奪われるものが世の中にあるなんて!」
「……嵐のそれもわけわからん性癖だな。ただの百合好きじゃないんだよな?」
「ああ、さっき生徒会長と千歳ちゃんのやりとりじゃなんの反応もしなかった。生徒会長、桂とは別タイプの変人で美人なのに」
女同士なら誰でもいい、ということはない。千歳と桂でないといけないようだ。だから嵐は千歳がなずなに好意を持っている事に対してはなんとも思わないが、告白して二人が付き合う事になれば焦る。だから『良かった』なんて失言をしてしまった。
「嵐のそういうのって見た目良い女子二人がいいのかと思ったけど違うんだな。実の妹とその親友で、って」
「実の妹じゃねえよ」
短く鋭い言葉だった。冷たすぎたなと反省し嵐は柔らかい口調で付け加える。
「俺は桂にとって遠い親戚で、小さいときに俺の親の育児放棄で今の両親に引き取られた子供で、って知ってるだろ?」
「あ、うん。ごめん、あまりにも二人が見た目も雰囲気も似てるから、忘れてしまう」
「ナズにそう言ってもらえると嬉しいな」
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