どうかしている文芸部

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「いえ、生徒会長に気を配ってもらって、とても助かります。こうして私達が文芸部として活動できるのも生徒会の方々のおかげですし」 「千歳ちゃん、しっかりしてるなぁ……生徒会とか興味ない?」 「もう文芸部の副部長になっちゃいましたから。でもお手伝いできることがあれば引き受けますよ」 「あらら、振られちゃった」 そういえばこの生徒会役員は気に入った生徒を片っ端から声をかけ、生徒会に勧誘しているらしい。そうでもしないと生徒会を手伝ってくれるものがいないのだろう。 千歳はこれだけ文芸部を助けてくれた生徒会なら手伝いたいが、今は文芸部で活動したいので断る。 「千歳ちゃんって、文芸部のこと本当に好きね」 「クラスが皆違う私達が集まれる場所ですから」 その言葉で生徒会長はこのお茶会を早めに切り上げさせた。貴重な文芸部の活動時間をこれ以上奪ってはいけないと判断したのだろう。 お土産に菓子を持たされて、千歳は部屋を出た。 そしてすぐさまブレザーに入れていたスマホを取り出し、写真を削除する。 「これが見つかったら言い逃れができないよね」 世の中には手書きの官能小説を破いたものを見られて大慌てするものもいる。後ろめたいものは持ち歩かない方がいい。少しでも見られる可能性はなくす。 千歳が消去した写真は、旧文芸部で不良達がたむろしている写真だった。 生徒会長に見せられたものと同じものと、それと同じアングルで似たような写真が何枚かある。 千歳は盗撮盗聴して得たこれを生徒会や教員達に送りつけることで、不良を文芸部の部室から追い出したのだ。 念の為写真をスマホに残しておいたが、万が一誰かに見られた時が怖い。家のパソコンにもデータはあるし、そもそも文芸部室を手に入れるという目的は果たした。だからこの不良達を陥れる情報はもう必要ない。 ポケットにはペンもある。それは捨てるわけにもいかない。このまま持って帰るつもりだ。 「これは……今日仕掛けるのはやめておこう。なずな君と桂は私の想像するような事は何もないみたいだし」 ペンには録音機能がついている。それを千歳は今の文芸部の部室に仕掛けるつもりだった。なずなと桂がこそこそとしている様子が気になって、盗聴して何をしているのか知ろうとしていたのだ。 しかし嵐が言うには、あれはなずなの書いた官能小説を桂が読んでいるだけらしい。千歳はその答えに納得できた。二人は恋愛関係ではないし、恋愛関係だとしても文芸部として共にいられればいい。なら盗聴の必要はない。 ただ、なずなの書いた官能小説というのは気になる。千歳は彼と出会う事によって世界を変えられた。ならば彼が作った世界、小説も気になる。 しかし同時に恐ろしくもあった。彼の描く世界と、彼により世界を変えられた自分。違いがあるのを目の当たりにすると、せっかく色鮮やかになった自分の世界を壊されてしまうかもしれない。 「文芸部、長く続けないと」 そのためだったらなんだってする。盗撮盗聴も、嘘をつくことも。 千歳はなずなが好きだ。神だと思っている。そしてなずなと共に育ってきた桂と嵐も。彼らと出会ってから千歳は世界が変わった。今ではそれを失うのは恐ろしく、だからこそ一緒にいられる文芸部を作った。 自分はどうかしていると思わなくもない。きっとこんなどうかしている趣味を持つのは自分だけだと千歳はペンをしまい込んだ。 END
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