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「まぁ私も百合は結構好きだね。征服欲支配欲とか薄くて純粋に快楽を求めるのがいいよね。あと単純におっぱいがいっぱいだもん。嵐が好きになるのもわかるな」
「嵐はそんな理由じゃないと思うけど……」
「うん?」
「いや、なんでもない」
桂がふと気付けば話す事が楽しすぎて食べることを忘れていた。お弁当の半分以上がまだ残っている。
「はぁ。ナズ君と話すの楽しすぎる。世界中の人がナズ君ばかりになればいいのに」
「そんな世界はすぐ破滅するよ。僕以外に本好きな友達を探して見つけなよ。桂さんの読書量や文章の良し悪しを見る力はすごいんだから、本好きの女の子さえ見つければ大丈夫だよ。それで場数をこなせばいい」
桂は最初はげっそりした顔になったものの、そのなずなの言葉を聞いて嬉しくなる。
彼の褒めてくれた桂の読書に関する能力は彼が与えたものだ。
「なに、にやにやして」
「そんな私の力をここまで磨いてくれたのはナズ君なんだな、って思って」
「どういうこと?」
「私が入院してた間、本を選んでくれたのはナズ君でしょ。嵐はそこまで本好きじゃないから、代わりに選んでくれたって」
小学生の頃に入退院を繰り返してきた桂にとって、本は一番触れたものだ。しかしさほど本好きでもない家族が桂のために本を選ぶには苦労する。なので本好きななずなが代わりに選んであげたのだ。
だから今の桂があるのはなずなのおかげで、それが今なずなの役に立てているのが嬉しいと、桂は頬がゆるむ。
「でも本を選んだのはちょっとの間の話だよ。三年生ぐらいかな。なんか急に嵐が見舞いに行かなくなったよな。そうなると僕も代わりに選ぶ役目がなくなったから」
「あぁ、あったねそういう頃も。あれ、反抗期だったのかな。なんかぜんぜん話してくれなくなったんだよね。それで手術直前に今みたいな過保護になって」
嵐は最初から過保護というわけではなかった。
最初は普通。親の育児放棄により一年小学校の入学を遅らせた彼は、同級生となったなずなとよく遊んで、桂はその二人の姉として振る舞っていた。その頃の嵐は本を代わりに選んで欲しいとなずなに頼むくらいには姉思いだった。
しかし嵐が四年生になる頃には、桂とも話をしないしお見舞いにもいかなくなった。
それから桂が手術を受けて、中学入学を一年遅らせて三人が同級生になってから。その前後で嵐は今の嵐になった。
少し早い気もするがただの反抗期かもしれないというのが両親の推測だ。斎藤家はそれを気にしたことはない。しかし今になってなずなはそれについて考え込む。
「確かにあの空白期間みたいなやつ、なんだか気になるな。嵐の性格なら自分が見舞いにいかなくても僕には何か言うだろうし。本当に何も言わなかったから。……正直桂さんの病状がひどいのかと思ってた」
「手術前だよ。まぁ手術が絶対成功するってわけじゃないと思うけど、体力つけて調子よくなってたところなんだから」
「……考えれば考えるほど気になる」
今となっては桂もどうでもいいことだが、なずなは気にしていた。それだけなにか様子がおかしかったのだろう。
桂はやめとけばいいのにと思うものの、なずなを止めはしない。刺さるあらちとを書くためには嵐と千歳の欠点にも目を向けなければならない。そう言ったのは自分なのだから。
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