どうかしている文芸部

4/17
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
問題の二人が去ったため、なずなは事情を話す。 嵐と千歳に言えるはずがない。なずながただの同じ部であるだけの嵐と千歳をモデルにした官能小説を書いているなんて。そしてそれを桂が楽しみにして読んでいるなんて。 「まぁ『孕め』とは言わないわね。嵐けっこう真面目だし責任感強いし。でもフィクションなんだからさ、フィクションエロ映えとして、リアルじゃなくてもいいと思うよ」 「いや駄目だ、嵐は嵐、千歳さんは千歳さんとして書いているんだから」 「なんだろーな、ナズ君のその性癖。千歳ラブなら自分に近いような相手を書くはずだし」 「嵐✕千歳が推しカプなんだ」 あくまでなずなはリアリティにこだわる。現実の嵐と千歳の言動に寄せて小説を書く。二人は恋人同士でもないし性的な関係は一切ないという現実は無視しているようだが。 最初、桂は『なずなが千歳を好き』なのだと思っていた。千歳が好みで、千歳の性的な小説を書きたい。それならまだわかる。しかしその場合なら相手役を自分に近い男にする。もしくは適当なモブを書く。なのに相手は嵐。それもかなり現実に寄せている。 だからきっと、なずなにとって二人は推しと推しに仲良くしてほしい推しカップルというのだろう。 「それで今日は小説ないの?」 「千歳さんが他の男子と仲良さげに話したおしおきプレイものならここにある」 「ナズ先生の新作! 供給ありがとうございます!」 なずなが鞄からノートを取り出し、それを桂に与えた。桂はそれを掲げる。 彼が小説を書くのはノートなどの紙だ。それに鉛筆で思いついたまま書き綴る。今の時代からしてみれば信じられないくらいのアナログな方法だ。だからこそさっきのような焦る事件が起きたのだが。 「相変わらず字が汚いね。さっきはそれに助けられたし読めるけど。スマホとかパソコンで書かないの?」 「後で修正する時にはそうする。でも機械は一回誤爆した事があるからあまりやりたくない。前に間違えて嵐にメール送信してしまった」 「嵐に? それやばくない?」 「修正時に名前は変えてある。嵐は野分(のわき)に、千歳さんは千尋に。だから嵐は僕がエロ小説を書いているということだけは知ってる。それで褒めてくれた」 「ああ、野分って秋の嵐みたいな意味だよね」 「ああ、誤爆した時に嵐が、『この男、かっこよさげなのに野分(のぶん)って名前ダサくない?』って言われただけだから、本当に気付いていないだろう」 桂はベッドシーンを読み進め、なずなはその反応を伺いながら話をする。 嵐は幼馴染のなずなが官能小説を書いている事は知っている。さっきだって紙片で何かに勘付いて、それで千歳を部室から連れ出してくれたのだろう。 しかし嵐と野分という共通点に気づいていないようなので、自分がモデルとは思ってもいないはずだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!