どうかしている文芸部

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■■■ 放課後の校舎では、どこからか軽音部のギターの音が聞こえていた。 人は少なく誰ともすれ違わないので嵐と千歳は並んで歩く。その際嵐は千歳に歩幅を合わせていた。 「悪いな、千歳ちゃんばかりに仕事押し付けて」 「ううん。これくらいなんてことないから」 二人はそんな当たり障りのない話をする。嵐は千歳を『妹の友達で同級生』としてしかみていないし、千歳は嵐を『友達の兄で同級生』としてしか見ていない。お互い良い感情は持っているが、普段騒がしい桂がいないと調子が狂う。 「千歳ちゃんと桂はもう一年だっけ。たしか高校入試からの付き合いだから」 「うん。桂には予備の消しゴム貸してもらったのがきっかけで」 「そう、あいつ女子の友達いないからこれはチャンスと俺とナズで囲い込んで打ち上げに呼んだんだよな。今思うと申し訳ないな、受験終わったとはいえ人によってはまだ試験あるし、千歳ちゃんを打ち上げに誘いたい奴もいただろうに」 一年前の事をまるで遠い昔のように二人は語る。 嵐と桂は双子の兄妹、なずなはそれの幼馴染。そして千歳は入試時に桂と出会った。 ぽつぽつと人見知りを発揮しながらも話す桂を見て、嵐は思った。これは桂が友達を作るいい機会だと。 そこから強引に打ち上げに誘い、受かったら桂と仲良くしてほしいと嵐となずなは二人がかりでお願いした。そして四人全員合格し、今も部として付き合いを続けている。 「大丈夫、滑り止めはもう受かっていたし、他にこの学校を受けていた同じ中学の子はいなかったから。逆に友達がいなかった中、桂には助けてもらえたし、皆が誘ってくれてほっとしてる」 「あ、そうか。地元離れておばさんの家にお世話になってここに通っているんだっけ」 ほほえみながらそう答える千歳に嵐はひたすら感心する。 彼女をぐいぐい押して桂の友達にして良かった。しっかりした子だ。一見千歳の方が損をしているように見えるかもしれないが、彼女は他にも友達がいる。本当に桂の存在が迷惑なら自分から離れる事もできるだろう。 「でも桂って慣れたやつにはああだからさ。本当に大丈夫? 怒ったら俺に言うか、なんなら殴ってもいいからな?」 「……そういえば、今日桂にはエロ小説を書かないかと言われたかな。教えてあげるからって」 「なっ!……………………それは本当に申し訳ない」 嵐は両手で顔を覆い、そう詫びるだけで精一杯だった。わざわざ毛筆で部の決まりを書いたというのに。 「大丈夫だよ。桂って人が一回でも嫌がればその話はしないし、クラス見た限り仲良くない人には下ネタ言わないし」 「それはあいつが人見知りだからだと思うが」
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