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ならば嵐は『なずなは千歳をモデルにした官能小説を書いているため千歳に隠している』として考え、誤解を説いてやるのが幼馴染の役目だ。
「多分それ、ナズがエロ小説書いて、桂にだけは見せてて、でもそれが恥ずかしくて破った紙だったんだと思う。俺も前、それっぽいのを見たから」
「え?」
「あいつら多分千歳ちゃんのいないところで千歳ちゃんには聞かせられねえような事話してんだ。それは千歳ちゃんには仲間はずれみたいに感じるかもしれないけど、あいつらからしてみればマナー、気遣いなんだよ」
決して嫌な感情から仲間はずれにしているわけでないということだけは伝える。小説を不特定多数に公開するのも、下ネタを話すのも、なずなにはできない事だった。だから書いた官能小説を桂だけに見せていた。そして桂もそれを秘密にしてあげていた。さっき秘密がバレそうな時には二人して慌てた。そんなところだろうと嵐は推測している。
きっと千歳はなずなと桂の事を疑っているのかもしれないが、嵐からしてみれば二人がくっつくなんてありえない。あれはもう姉弟のようなものだ。
千歳は少しだけ顔の血色がよくなり、足取りが軽くなった。
「そ、そうだったの? 知らなかった。なずな君、言ってくれればいいのに」
「いやー、ああも性癖全開なのはうちの妹だけだよ。ふつーは仲良くても性癖を見せるのは恥ずかしいし、だから千歳ちゃんだけには言えなかったんじゃないかなー?」
なずな→千歳という好意については伏せておく。しかしこれだけ言えば千歳の誤解は解けるだろう。
それにしても誤解がとけて千歳は嬉しそうだ。
「やっぱり千歳ちゃん、なずなの事が好きなんだな」
「え?」
「昨日更新された小説、読んだよ。暑い夏の道を歩いて、ひまわりを見る話。あれ、夏休みの君とナズだよね?」
昨日更新したばかりの小説を嵐はもう読んでいた。さらにはその元ネタまで気付いている。それをきっかけに千歳のなずなへの好意に気付いたようだ。
「……どうしてわかったの?」
「ナズは汗をかかない体質なんだよ。対して小説の主人公の『わたし』は汗をかいていた。その『友達』は汗をかかない体質みたいだったから」
それだけで、と千歳は思う。そんなものは描写し忘れただけではないかと。しかし言われてみれば千歳もなずなが汗のかく姿を想像できないし、小説の中の『友達』は汗を書いていなかった。
「あとは、夏休みに部が認められて部室の掃除をすることになって、確か千歳ちゃんとナズが二人で買い出しに出たなぁって。その後にナズがひまわり見たって言ってた。それをあの小説で思い出した」
「……わかりやすかった?」
「桂はうっすら気付くかもしれない。けどナズはにぶいからな。大丈夫だよ」
千歳は寒さに反して熱くなる頬を押さえた。さっきのなずなの感想だって気付いた様子はない。なら本当に彼は気付いていないだろう。
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