嫉妬

　それから俺は、彼に言われた通り演じてみた。お嬢様を、もう一度振り向かせるために、水槽の中で、名一杯愛想を振りまいた。可愛い自分になり、ガラスにぶつかるくらいまで近づき、お嬢様を見つめ続けた。そして、求め続けた。また俺を見てほしくて。

　しかし、お嬢様は振り向いてくれなかった。

「嘘つき」

　俺は、隙を見つけて、彼にそう言った。

　彼は、そんな俺を見ながら笑っていた。お嬢様の膝の上から、笑っていた。心から嘲笑するような顔で。

「ねえ、気分はどう？」

　また二人っきりになった時、そう言った彼は、皮肉な笑みを見せてきた。

「こんな事をして、面白い？　君は俺を騙したな」

「くっくっ。信じてたんだ？　君には無理に決まってるじゃないか。残念だけど、君には僕のような可愛げがないんだよ」

「お前」

「いい気味だ。いつまでもそうやってればいいさ」

　俺は、我慢出来なくなった。

「君は醜いよ。心も体も。俺のような鮮麗さがないね」

　その言葉に、彼の目は変わった。

「馬鹿だな。自分で考えることをしない。僕の言われた事をそのままするしかできない。そんな奴に言われたくないね」

「ふんっ。君は、本当に可笑しな猫だ」

「そうやって、いつまでも拗ねていればいいさ。お嬢様はもう、君の方を見向きもしないよ。あっ。それともあれか？　生きることが嫌なら、このまま君を消してやってもいいよ」

「消す？」

「今の僕にはなんだってできる。君を頂く事だってね。　でも、君は全然美味しそうじゃないけどさ」

　そう言って、彼はまた笑った。