2 あたし、この部に入ります!

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「ドラム! テツ!」  セラ先輩が合図を出した次の瞬間、スティックと金属がぶつかるけたたましい音が鳴り響いた。  テツ先輩の左右の手が自由自在に動いて、部屋中に次々と衝撃を送り出す。  穏やかなテツ先輩の細い腕から、こんなに力強い音が生み出されるなんて。   しばらくの間、呼吸も忘れて聴き入ってしまった。 「キーボード! モニ!」  モニ先輩の美しい手が、鍵盤の上で虹色の表情を見せる。  丁寧に奏でられた音の一つひとつがそれぞれの役割を果たして、フレーズ全体が一つの物語みたい。  さっきあたしにハグしてきた時からは想像つかない、真剣な瞳。  一音も妥協せず音色を奏でるその姿は、「音楽のために生きてる!」って感じで、惚れ惚れしちゃう。 「ギター! ジオ!」  浅野くんの白い手首が、藍色のギターの上で激しく暴れ出した。  わずかに体を揺らしながら無表情で弦を弾くその姿は、まるでギターと二人きりで対話してるみたい。  ジャキジャキと歯切れの良い音が、あたしの全身を(とりこ)にする。  初対面の先輩たちを前にした緊張も、浅野くんのことが苦手だという気持ちも、ぜんぶぜんぶ忘れちゃって、気がつけば夢中で首を振っていた。  ——最後にもう一回サビが演奏されて、曲が終わった。  ふわあああ、ほんとにすごかった。 「転ぶなよ」 「へっ?」  浅野くんに言われて、自分が拍手をしながらその場で何度も飛び跳ねていたことに気づく。  セラ先輩が持ってきてくれたパイプ椅子は、あたしの後ろで無残に倒れていた。  生まれたての赤ちゃんを見守るような先輩たちの視線に気づいて、思わず目を伏せる。今にも顔が沸騰しちゃいそう。 「どうだった、みかるん?」  モニ先輩が、勝ち誇ったように問いかけてきた。  顔を上げたあたしの表情は、たぶん自分でも見たことがないほどに満面の笑みだったと思う。  もう、手遅れだった。 「あたし、この部に入ります!」
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