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「無茶言わないでよ。あと、その場合『ズルい』じゃなくて『羨ましい』とかのほうが言葉として正しいと思う」
もう! 今はそういうのはいいから!
あたしは、舞ちゃんの大人びた性格をすごく尊敬している。
だけど、どんなときでも冷静なもんだから、ときどきムカーってきちゃうんだよね。
「せめてさ、彼氏できそうになったら早めに報告してよ! そしたらあたしも——」
「静かにしろ!」
突然、怒鳴り声が教室に響いた。
びくっとして、声が聞こえた方向に視線をやる。
窓際の席、両耳に紺色のイヤホンをつけた男の子が、ギロッとあたしをにらんでいた。
クラスメートの浅野磁緒くん。サラサラした髪と切れ長の目が特徴的で、一部の女子から人気が高い。
だけど、正直あたしは苦手。だって、ぶっきらぼうで怖いもん。
「曲が聞こえないんだよ。声量を考えろ」
なによ、そもそも下校まではスマホ使っちゃダメって校則で決まってるじゃん!
……と反撃したくなったけど、無理だった。親しくない人にズバズバ言い返せるほど、あたしは強い人じゃない。
——またあのときみたいにクラスに敵を作りたくないし。
「ごめん……」
あたしの謝罪が聞こえたのか聞こえてないのか、浅野くんは黙って目をつむり、音楽に浸り始めた。
せっかく謝ってやったのにって思ってイライラするけど、今はそれどころじゃない。
あたしは舞ちゃんに向きなおって、声を少し抑えながらさっきの話に戻った。
「はー、ズルい! 舞ちゃんだけ先にドキドキしちゃって!」
「仕方ないじゃない。同時になんて無理なんだから。みかるはもし自分が好きな男の子から告白されたら、私が彼氏できるまで待つの?」
うう……。
反論の言葉が見つからない。舞ちゃんってすごく頭いいから、言い合いしても勝った試しがないんだよね。
「もういいもん! 舞ちゃんが先にドキドキしちゃったなら、あたしはドキドキよりもすごい恋をするんだから!」
「ドキドキよりもすごい恋ってなによ?」
「えーっと……」
ドキドキよりもすごい恋?
自分で発した言葉を、頭の中で繰り返す。
するとなぜか、そのキーワードが降ってきた。
「バ……バキバキ!」
「バキバキ?」
「そう、バキバキ! あたし、ハートがバキバキ鳴る恋をするんだから! 舞ちゃん、見ててよね!」
——そういうわけで、あたしの中学校生活のミッションは、「ハートがバキバキ鳴る恋」をすることになった。
「バキバキ」ってどういうことなのかは、まだうまく言葉にできない。
でも、あたしは信じてる。
じきに超絶イケメンの王子様が現れて、私の心をバキバキ鳴らしてくれるって!
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