1 天才の手!?

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 小学四年生の時、指の長さのことでイジワルな男子たちにからかわれるようになった。「ユビナガオンナ」とか言われて。    そのうちクラスが離れたこともあって、いじめ自体は収まったけど、いろいろ言われた傷はなかなか癒えそうにない。  だから、中学校に進学した今でも、なるべくクラスメートに手の形を見られないように気をつけているの。  ——そんな、あたしの劣等感の原因ともいえる部位を、初対面のイケメンに握られている。  なに、この状況?   「やっぱり!」  あたしの右手をじーっと観察しながら、なぜか顔を輝かせる先輩。 「君、右利き?」 「あ、はい」 「そうか、最高だな」  質問も、そのあとのコメントも意味不明すぎる。  どうしていいのかわからず黙っていると、イケメン先輩があたしの手の甲に唇を近づけてきた。  温かい吐息が、あたしの肌に染み渡る。  え、これって、もしかして……。  まさか、この人があたしのハートをバキバキ鳴らす王子様なの?  いくらなんでも、こんな急に出会うなんて!  全然心の準備ができてないけど、出会っちゃったならそれまでだ。  覚悟を決めたあたしは、ぎゅっと目をつぶり先輩の口づけに備える。  ……ところが、いつまでたっても右手に唇の感触が乗ってくることはなかった。  ゆっくりと目を開けて、イケメン先輩の様子をうかがう。  すると、いつのまにか顔を上げていた先輩が、あたしにウインクしてこう言った。 「天才の手だ! 今日から君は、うちのベーシスト!」 「はい?」  べーしすと?  ……ってなんだっけ? 「オレは三年生の六条(ろくじょう)声来(せら)! 『セラ』って呼んでね! 天才ちゃん、君の名前は?」 「えっと、瀬底(せそこ)みかると言います。一年生です」 「みかるちゃんだね、よろしく! さあ、行くよ!」  混乱しているあたしの手首を掴んで、セラ先輩が早足で歩き出した。 「え、ちょっと待ってください!」  わけがわからないまま、たった今下りてきた階段をまた上らされるあたし。  いったい、どこに連れていかれちゃうの?  今から舞ちゃんとバレー部の見学に行くって約束してたのに!
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