『ピョン吉』の村

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 干しガエルはいくら干してあっても、腐ることは腐るので、外出以外は冷蔵庫で寿命を少しでも延ばす人もいる。が、ほとんどの人は自宅でも『ピョン吉』を愉しみたい人が多く1週間はぶら下げたままになっている。    その干しガエルは腐る前に食う人もいるし捨てる人もいる。ただ、捨てる人の方が多いのか、梅雨を越した後は、狭い舗装道路いっぱいに腐った干しガエルが散乱している。これを見て、一部の老人たちは現代の若者を「罰当たり」と総称する。ただ、多くの老人たちは今も昔もそう変わらないがなァ…と嘆息し、一喝する老人自らも、進んで捨てている人がいるのも事実である。  ただ、白で無地のTシャツとも干しガエルとも無縁な『ピョン吉』スタイルではない人たちにとっては、いい迷惑である。腐臭が余りにもきつく、景観も損なう。  今まで捨てガエル問題が村議に議題として掛けられたことは数回あったが、必ず昔から受け継がれてきた〝村の風習〟だからの一言で皆口を噤んでしまう。  そこには小さなあきらめと、大きな風習に対する畏敬の念が感じられた。  そう、この捨てガエルも「厄落とし」の意味合いがあると信じている人も多いのである。  こんなダイコン如きにも、こんな風聞が伝わること自体、『ピョン吉』スタイルを慮る村民が大勢いることの証なのだろう。
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