今日、魂を拾った。

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「というのが今からちょうど一年前の出来事であると同時に、お前の誕生秘話でもある。いやー、組み立てるの苦労したんだぞ。接着剤は別売りだったしな」 「長いうえにリアリティまで皆無かよ! 俺という生命をプラモデル感覚で創造されてたまるか!」 「な、何!? そこらへんに転がっていそうなありふれた話じゃないか! なぜ嘘だと思う、どこに疑問を差し挟む余地がある!?」 「最初の一文から既に嘘の匂いしかしないだろうが。何だよ魂を拾うって、大前提として魂は落ちてるもんじゃねぇよ」 「お前のその突っ込み体質は、魂時代から変わってないな。にーちゃん、嬉しいぞ」 「まだ頑張るか! ……ったく、もういいよ付き合ってやるよ。で? 具体的に俺をどうやって作ってくれたんだよ」 「ああ、それはもう大変な作業だったさ。まずは強固に固定されたお前の手や足といった各部位を、鉄の鎖から解き放ち――」 「ランナーの状態からパーツをニッパーで切り取ったんだな? ゲートは少し残して切り出したほうがいいらしいぞ、ちゃんとやったか?」 「次に、ばらばらだった部分をひとつに融合する。この作業には、にーちゃんの粘着的な波動をうまく使った」 「何そのおどろおどろしい言い回し。知ってる? お前、さっき普通に接着剤って言ったぞ。別売りって言ったぞ」 「そして最後に魂印のビー玉を適当に埋め込んだらお前が出来たんだよ」 「そんな慈しむような目をしても、途中で話を作るのが面倒になったの丸わかりだからな。しかも、魂じゃねぇじゃん、ビー玉じゃん。物語として破綻しまくりだがいいのかそれで」 「あーあー、わかってくれとは言わないが! お前を作るのに、にーちゃんがどれだけの時間と労力と血を使ったと思ってるんだ」 「急に歌うのやめろ音痴。大体、せいぜいが難易度の高いプラモデルを作る程度のことでそんな大げさな」 「何を言う。血を出したのは本当のことさ。死ぬんじゃないかと思うくらい大量にね。主に鼻から」 「そのまま死ね!! 人の制作過程で、なんてところからなんてもの出してんだ!」 「大丈夫大丈夫。地球に優しいにーちゃんは、その血の一滴までも無駄にしなかったさ。ちゃんと丹念にお前の体に塗り込めておいた」 「どこに……いや、この話は広げねぇぞ。断固として無視するからなって何だその清々しい表情っ! やり切った感を出すな腹立つ!!」 「まぁ、そういうことだ。お前はにーちゃんの汗と鼻血と気紛れの結晶なんだから、これからも自分を大事にするんだぞ」 「ごめんなさい。今ので一気に死にたくなりました」 「それで、お前は結局この話を信じたのかい?」  今の今まで馬鹿話に花を咲かせていたとは思えないほど調子の違う声。そして、皮肉げに笑う顔。この兄貴は、たまにこんな姿を俺に見せてくる。しかも、いつも突然に。毎度のこととはいえ、まだそのことに慣れない俺は、ほんの少しだけ緊張しながら言葉を選び、僅かな溜め息と共に吐き出す。 「……信じないくらいには、真っ当な考え方をしているつもりだけど」 「そうか」  それが兄貴にとって満足のいく答えだったのか、そうでなかったのか。貼り付けたような嘘くさい笑みからは、心情を察することなどできやしない。 「お前が思っているほど、嘘ばかりという訳ではないんだけどね」  そんな兄貴の言葉を、不本意ながらも俺が理解することになったのは、その数日後――。  今日、魂を拾った。
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