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室町時代
「こら、ツネ。何度言わせたら気が済むんだい」
「だって、お母。オラ、こいつ飼いたい」
「駄目って言ってるだろ。どこに食わせる物があるんだい。早く、返して来い」
「だけど、お母」
「駄目なものは駄目だ」
お母は戸を強く閉じた。それをじっと睨んだ。
どうしてだ。涙を堪えることが出来なかった。
ちりん−。
鈴の音色が、足元から響いた。
「にゃあ。にゃあ」
ぶちが、オラの草履に体を擦り寄せてきた。
「辛いな。オラも辛い」
温かいお毛並みと体温が、左足から伝わる。
ぶちの体温でオラの気持ちは、さらに高まった。
「ぶち、諦めんな。オラは絶対にお前を捨てたりはしない」
そう。捨てたりはしない。
ぶちの体に縛り付けた縄を強く握る。やっと見つけた友達。オラは、そんな友達を何処にもやりたくなかった。
だから、連れて帰って来たというのに・・・。
しかし、お母は認めてくれない。むしろ、ぶちとオラを突き放そうとする。
友達を見捨てろなんて・・。
オラは、お母が嫌いになりそうになった。
ぶちを連れて、村を歩いた。
村のみんなも、何故かオラ達を冷たい目で見てきた。
『猫を飼うことが、そんなにおかしいのか?』
その目を浴びると、寂しい気持ちになってきた。
だけど、諦めるつもりはなかった。だったら、内緒にすればいい。
村外れにある、大きく聳える松の木。その木に、ぶちを結んだ。
「ぶち、一人になっても、決してお前を見捨てた訳じゃないからな」
ちゃんと、ぶちの目を見て伝えた。ぶちはオラから目を逸さなかった。
気持ちを言い残して、その日は家に帰った。明日からどうやってぶちにご飯を持って行こうか?
しかし、オラのそんな想いはふわっと空に消えた。翌朝早くに松の木に着くと、そこにはぶちがいなかった。
あいつ、一体どこにいっちまったんだ?
いくら待っても。どれだけ辺りを見回しても。ぶちは何処もいなかった。
オラは村中走り回って、ぶちを探した。しかし、ぶちは見当たらない。
結局オラは、ぶちと会えなくなった。
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