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重たい、見ていてキツイ、しつこい。そんな言葉、春明だけは一言も言わなかったのである。一緒に病的なネガティブ思考をゆっくりと変えていこうと言ってくれた。自分達の間にルールを作って、それが守られている限りは安心できるというところから始めないか、と。
付き合っていた頃の自分達は、本当の子供みたいに純粋な恋をしていたと思う。
キスより先は、結婚してから。
その代わり、言葉でいっぱい愛を確かめよう、と約束した。
毎週、何でもいいから相手の好きなところをメールで送り合う。電話は毎週一回、どうしてもできそうにない時は事前にメールで送っておくことにしよう。それから、一カ月に一回は互いの写真を送ろう。それらは全て、春明が心配性な私のために作ってくれたルールだった。そういうものを決めて、ある程度“束縛感”を出してくれた方が私がほっとする質であるということを、彼はよくわかっていてくれたのだと思うのだ。多分私は――これを言うと気持ち悪いと言われそうだし自分でもちょっと思うけれど――好きな人にはストーカーされてしまうくらいきつくて重たい愛を貰いたいと、そう願うレベルの人間だったから。
仕事が始まってからは、映画館に行ったり水族館に行ったりという可愛いデートができる日も減ってしまった。けれど、彼がその“ルール”を丁寧に守り続けてくれたから、会えなくてもさほど寂しいと思わずに済んだのである。大好きな人と付き合えて、その愛情を疑わずにいられる日々がどれほど尊いものであるのか。私は彼と出逢って初めて知ることができたのである。
破れ鍋に綴蓋、なんてまさに私達のための言葉であったことだろう。結婚してからは五年後、私達には待望の赤ちゃんが生まれることになった。彼の愛情を奪われたらどうしよう、息子のことを旦那の付属品としか見れなかったらどうしよう――そう心配していた私だったが完全に杞憂だった。夫も、夫そっくりの息子も、等しく愛しい私の世界そのものになったからである。
順調な結婚生活だった。
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