永遠のキャメロット

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 あり得ない、と思ったのは。それらはあくまで、テレビの中の出来事であるべきだったからだ。  目の前の、自分の夫に限ってあるはずがない。彼はそんな人間であるはずがない――そう信じたかった。でも。 「子供を言い訳にして、俺を繋ぎ留めようって?……そういうのが本当にもう、疲れたんだよ俺は!」  彼は吐き捨てた。どこかの修羅場系のドラマでありがちな台詞を。 「君が満足すると思ってルールを決めて恋愛してきたけど、君の愛は重くなる一方だ。子供ができたらもう少し子供の方に傾くかと思ったらそういうわけでもなし。少し帰りが遅くなるとかメールが遅れただけで不安がって理由を責める責める……うんざりだ。俺はもっと気軽にできる恋愛がしたいし、仕事だって何だって監視されてるみたいな状況でやりたくない。疲れたんだよ、もう!」 「何、それ」 「彼女は違う。もっと自由に、ドライな関係で付き合ってくれる。俺はそういう恋がしたかったんだってやっと気づいた。秋留には悪いと思うし罪もないけど……君の血が入っていると思うだけで正直顔を見るのも辛い。君の子供だろ、君が育ててくれ。養育費だけは置いていくから」  甲高い音がした。自分の手がじんじんしてくるのを自覚して、やっと私は反射的に彼の頬をひっぱたいたことに気づく。よほど強い力だったのだろう、春明の頬は赤く腫れ、唇からは血が滲んでいた。 「自分が」  罪悪感など、湧くはずがない。  ただただ、信じられないという気持ちと、言葉につくせぬドロドロとした感情でいっぱいだった。 「自分が、何を言ってるか、わかってるの?どれだけ、自分勝手なこと、言ってるか……っ」  怒りや憎悪は、二次的な感情だと誰かが言っていた。悲しみを乗り越えた先にある、あるいは悲しみを誤魔化すための感情だと。きっと自分もそうすべきなのだろう。彼を憎んでしまえばいい。その方がずっと楽に呼吸ができるはずだと知っていた。  でも。 「嘘だったの?」  今は、それさえできない。視界が滲んだと思った次の瞬間にはもう、頬が熱いもので濡れている。こんな風に、一気に決壊するみたいに涙が溢れる経験なんてしたことがない。――したくもなかったのに。 「何でも、二人で乗り越えていこうって、そうしたいって……私の事が好きだからって言ったあの約束は、全部ウソだったの、ねえ?」 『そうやって、自分で自分を追い込むのは苦しいだろ。ちょっとずつ変えていこうよ。何でも乗り越えていきたいんだ……二人で一緒に。君が、好きだから』
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