永遠のキャメロット

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 あの日の彼の言葉に、今の今までどれほど救われてきたことか。  あれは全て、私を縛るための嘘だったとでも言うのか。本当はずっと前から、私の愛が重くて嫌だと、迷惑だとしか思っていなかったとでも?  もしそうなら、なんて酷い裏切りだろう。 「……とにかく、もう無理だから」  彼は私の問いに、イエスともノーとも言わなかった。 「君のことなんか全然好きじゃない。完全に愛想が尽きた。秋留のことはちょっとだけ気がかりだけど、君の血が入った子供なんかもう可愛いともなんとも思えない。だからここに捨ててく。俺はここからは自由に、彼女と一緒に生きることにする。慰謝料でも養育費でもなんでも置いていくし俺の私物は処分していいから、さっさと別れてくれ。君ももうこんな男は嫌だろ?」  さっさとサインして終わらせろ。そう言わんばかりに、私に離婚届を押し付ける彼。 「悪いけど。それに君がサインしようがしまいが、俺の心はもう決まってるから」  私にとっては。突然彼が豹変したようにしか見えなかったのである。最近仕事が忙しそうで疲れているなとは思っていたが、それだけだ。だからこそ、こんな風にいきなり“不倫している”“別れてくれ”“もう家族のことなんかどうでもいい”と言われても納得できるはずがない。たとえ、言われている内容がどれほど最低最悪だとしてもだ。  それですぐに、はいそうですか、とサインできるほど――私の想いは軽いものではなかったし、信じたくない気持ちの方がまだ勝っていたのである。  残念ながら。私がサインを迷っている数日のうちに、彼は最低限の荷物だけまとめて家を出ていってしまったけれど。息子の養育費と、慰謝料と思しきありったけの金だけを置いて。  後には、何故父親がいなくなったのかわからない息子を抱きしめたまま、途方に暮れる私だけが残された。  ひょっとしたら、それこそが彼の狙い通りだったのだろうか。私に冷静な判断をさせないために。自分を絶対に、追いかけてこられないようにするために。
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