Rain story

1.桜雨

【桜雨】
桜が咲くころに降る雨。

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桜雨が薄桃色の花びらを揺らし、川面に波紋を広げる。まだ肌寒い。今日で散ってしまうだろうか。向こう岸には、幸せそうなカップルが手を繋ぎながら歩いている。
一年前は、私もそうだった。
目を瞑ると、彼の横顔、右手のぬくもり、あの時の風景を思い出す。

ハート型の花びらが舞って、彼が私の髪を撫でながら「好きだよ」と呟いた。私は嬉しくて彼の腕にしがみついたんだっけな。桜雨が降り出して、2人で相合傘をしたんだ。
水玉柄の傘を見るとあの日を思い出す。

「今年は1人で差すのか」

バサッと差す前に、黒色の傘が雨をしのいだ。

「今年も一緒に差そうか？」

「え？」

振り返ると、懐かしい笑顔が目の前に広がった。春風が舞い上がり、桜雨と混ざって懐かしい気持ちを運んでくる。
胸の奥がキュンと音を立てて騒がしい。

私は、桜吹雪が舞う背中を抱きしめて微笑んだ。