嘘(ウソ)

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 柔らかい雲にふわりとすくい上げられるような感触で、うたた寝から目を覚ました。部屋の中はとうの昔に暗闇となっていて、ソファの向こうに投げ出された自分の白い脚がぼんやりと浮かび上がっている。時刻を確認する気分にもならず、ぐっと力を入れて伸びをした。起き上がって開け放したままのカーテンのしわを眺め、窓の外に視線を移す。  この部屋に戻ってきてもう10年になる。都心の都心、便利さだけが取り柄のマンション。両親が遺した、築50年も近いボロマンションの12階。耐震工事をしたり水漏れ工事をしたりとわずらわしいことも多いが、真っ暗に晴れ渡った夜空を飾る夜景が(さくら)のお気に入りだった。  テーブルの上には、飲み終わってグシャリと形を変えたビールの缶。握り潰されたタバコの空箱と、吸殻が三本の灰皿。飛び散った灰。読みかけのファッション雑誌に、忘れ去られた小川洋子の小説。片づけのひとつもしない男の存在が、桜は鬱陶しく感じた。
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