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まだ、ベランダの柵に腰掛けている由香を見て、涼太は声をかけた。
「藤沢さん。まだ、桜は咲いてないよ」
「え……?」
「桜はそのうち、満開になる。散っていく桜と夕焼けを一緒に見られたら綺麗だと思う」
「そう。分かった」
そう言うと、由香は柵から降り、ベランダから涼太を見た。
「吉井くんは、『死んじゃダメ』とか『生きなきゃダメ』とか、言わないんだね」
「……藤沢さんの気持ちも、分かる気がしたから」
「え?」
「俺だって、ずっと幸せだと感じるわけじゃないもん。人間関係にも、社会で生きることにも、しょっちゅう疲れる。社会のルールについていけなくなって、全てから逃れたいと思うこともある。
でも、勇気がないから、生き続けなきゃならない。他の人がいるから、生き続けなきゃならない」
由香は、涼太をじっと見つめている。
「だから、藤沢さん。生き続けなきゃならなくなったら、俺に言ってよ。相談に乗れると思うから」
「そうする。でもね、生きようと思うことは、とても難しいことだよ」
「『生きようと思ったら』じゃない。『生き続けなきゃならなくなったら』言ってよ」
「……分かった。私、桜が咲くまで生き続けなきゃならなくなっちゃったから。相談に乗って」
「ああ、もちろん」
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