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『急に家にやってきた旅人に魔法をかけられて、気づいたらこんなところに閉じ込められていたの! 早くなんとかしてよ! わたくしをここから出して!』
「何よその悪の大魔法使い」
『魔王を倒す旅の途中だかなんだか知らないけど、勝手なことばっかりして……だいたい、領民も領民よ。旅人に依頼して私を封印させるなんて』
悪の大魔法使いかと思ったら違った。多分違うな、これ。アプリの名前も悪役令嬢と書いてあったことだし、おそらく、この少女が悪なのだ。領民が通りすがりの勇者ご一行に助けを求めるほどの悪だ。
「ふうん、凝った設定ねえ。それに、音声認識神だわ。こっちの言ってること全部わかってくれてる」
『設定って、作り物みたいに言うんじゃないわよ、この愚民!』
「話はわかったけど、お嬢様に罵られて興奮する性癖は持ち合わせてないのよ。どうせなら美少年出してくれない? どうやってキャラ変えればいいのかしら」
『あなたが何言ってるか全然わからないけれど、わたくしが侮辱されていることだけは理解したわ……!』
画面の向こうのお嬢様は、相変わらずクリア条件も教えてくれなければ、チュートリアルも始まらない。このオープニングトークはいつまで続くのだろうか。
放っておいて風呂にでも入って来ようか、と考えた矢先、画面の向こうのお嬢様がぷるぷると震え出した。
『信じてよ……ここから、出られないって、言ってるのよ……』
そして、大きな青い目からぼろぼろと涙がこぼれだす。
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