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いのちのうた
例えばそう、コップに注がれる水がいっぱいになって溢れるように、人の心に溜まった気持ちはどこかで吐き出さなければ溢れてしまう。
今日も俺は無傷で、目の前にいるこいつはボロボロ。こいつに俺は何が出来るのかなんて分からないけれど、それでも何もせずにはいられなかった。
「大丈夫か?」
大丈夫な訳なんてない。そんなことはわかっていたけれど、口から出た言葉はそれだった。
「大丈夫、ありがとう」
何をされても、泣かずにいる信道は強い。
「天野は大丈夫?」
「俺はこの通り無傷だよ、ピンピンしてる」
明らかに自分の方が重症なのに、おれの心配。
「お前だって、暴力は受けてなくても心に傷を負ってるだろ」
「俺が怪我する度に、お前も痛そうな顔してる」
当たり前だ。辛いのに泣かない信道を見ているとそんな顔にもなる。
「大丈夫だよ、俺は大丈夫」
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