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山科百合子は、ただ単に八並玲子の隣の席になったというだけの女生徒にすぎなかった。 だが、玲子が学校のことでよくわからないことがあったり、授業が理解できない場合などには、随分と丁寧に玲子に色々なことを教えてくれた。 玲子が授業中に教師に当てられ、ロクに答えられない時なども、隣から小声で正解を囁いて、助け舟を出してくれた。 玲子はそれに対して特に礼を言うでもなかったが、百合子の方は何かと甲斐甲斐しく玲子の世話を焼いてくれた。 相変わらずクラスの中では、玲子と、新宿遼子とその一派・紅竜会との睨み合いは続き、いつでも一触即発の緊張状態にあったが、しばらくは睨み合うだけの冷戦状態が続いていた。 だが、紅竜会のメンバーの中で、遼子の子分の一人である、"ひまわりバンドのヨシちゃん"は、日々苛々をつのらせていた。 「兄貴!あいつらナメてますよ。ちょっとシメた方がよくないですか?!」 ヨシちゃんは、今日も学校からの帰り道に、まるで大名行列のように周りを威嚇し、肩で風切って威風堂々と長い脚で闊歩する遼子の後をついていきながら、腰巾着のような態度でそう進言していた。 「わかっとるわ!テメーごちゃごちゃうるせーんだよ!シメる時はきっちりシメる!」 遼子がそう怒鳴りながら、中に鉄板の入ったペチャンコの学生カバンでヨシちゃんの頭を叩くと、ヨシちゃんは急に怯えた顔でシュンとなり、すかさず、 「サーセン!」 と遼子に大声で謝った。 ヨシちゃんが玲子らにやたら怒っているのは、先日ギターを弾きながら歌の練習を廊下でしていたヨシちゃんに、いきなり側を通った玲子が、 「うるせえ!下手くそ!外でやれ!」 と怒鳴りつけてきたことに腹の虫が治まらなかったからだ。 「テメー、誰に口効いてんだよ!"ひまわりバンドのヨシちゃん"と言やぁ、この辺じゃちょっとした顔なんだぜ!」 ヨシちゃんは歯を剥き出しにして、そう威嚇しながら、玲子をキッと睨み付けた。 だが玲子は薄ら笑いを浮かべて、 「"ひまわりバンドのヨシちゃん"だぁ?テメー、随分可愛い名前じゃねえか。さっきから歌ってる歌は何だ?」 「うるせー、テメー!"恋するフォーチュンクッキー"だ、バカヤロー!」 「ズベ公がAKBかよ?」 玲子はさらにニタニタと薄ら笑いを浮かべた。 「悪いか、バカヤロー!こちとらアイドルのテッペン目指してんだ!ナメてると堪忍袋の緒を緩めるぞ、テメー!」 ヨシちゃんは玲子にそう怒鳴りつけた。 玲子はひたすらオチョくったように笑いながら、その場を去っていったが、ヨシちゃんはその玲子の態度に怒り心頭に達していたのだった。 「あの野郎、許せねえ。フォーチュンクッキーをバカにしやがって!」 ヨシちゃんはそう言いながらも、さすがにゴロマキ玲子には手を出せないくらいビビっていたので、玲子とこのところ仲良くしているように見える何の関係もない山科百合子にナシ(話)をつけてやろうと、狙いを定めていた。
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