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ひまわりバンドのヨシちゃんは悲鳴を上げたが、すぐに、今、自分たちが買い物をやっている最中である事を思い出し、片方の手で自らの口を塞いで悲鳴を噛み殺した。 だが背後にいる八並玲子は、さらにヨシちゃんの腕をギリギリと捻り上げたので、もはやヨシちゃんは痛みに堪えきれなくなり、ほとんど口から悲鳴が漏れそうだった。 「何やってんだい!」 その時、ヨシちゃんと玲子の後ろから、尖った鋭い声がした。 玲子が振り向くと、そこには紅竜会の女番長、新宿遼子が、その美しい顔を歪めた恐ろしい形相で立っていた。 「百合子は関係ねえ!巻き込むじゃねーよ、ズベ公が!」 遼子の顔を見た玲子は、まるでその怒りの形相が乗り移ったかのように、自らも目を釣り上げた美しくも恐ろしい顔になり、遼子に噛みついた。 「ズベ公が、って、お前が言うな、ズベ公のゴロマキ玲子!だいたい巻き込んでねーし。 ただ社会見学させてたじゃねーか」 「嘘つけ!百合子に買い物やらせようとしてたじゃねえか!こいつに手出すんじゃねえ!」 玲子は遼子に至近距離で顔を突き合わせて、そう怒鳴った。 「ちょっとお前、顔近ぇーよ!ソーシャルディスタンス守れ、この野郎!だいたいこんなトウシロ(素人)に、いきなり買い物なんかさせられるわけねーだろ!見張りの見習い、つまり社会見学させてただけじゃねえか!」 遼子は全く悪びれずにそう言った。 「じゃあ社会見学はもう終わりだ。百合子は連れて帰るぜ。文句があるならタイマン勝負でケリをつけるぜ遼子。この間は邪魔が入った。今度は容赦しないよ!」 玲子はそう言って遼子を睨みつけた。 「それはこっちの台詞だ!テメエだけは容赦しねえからな。首洗って待ってろ!」 そう遼子が息巻くと、玲子は不敵な笑みを浮かべながら、百合子を連れて今来た道を戻っていった。 玲子と百合子が遠く離れたところまで歩いていくのを、腕を痛そうにさすりながら見ていたひまわりバンドのヨシちゃんは、 「テメエ、今日はあたいの顔で、このぐらいで勘弁しといてやるよ!」 と怒鳴った。 紅竜会のメンバーは一旦それを呆れ顔でスルーしたが、あまりにヘラヘラ人懐っこく自分に寄ってくるヨシちゃんに、遼子は、 「お前は池乃めだかか!」 と思わず鉄板入りのペチャンコ学生カバンで頭を叩いて、ツッコまざるを得なかった。
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