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「振られた」
涙目で爽ちゃんを見上げたら、眉尻を下げてふっと息をついた。
「また?」
「また」
唇を噛みしめた私の頭を、苦笑しつつも優しく撫でてくれる爽ちゃんの手はいつも温かい。
「今度はどうして?」
「わかんない」
嘘だ、本当はちゃんと聞いている。
『里桜って、本当はさ 』
もう何度言われたことか、お決まりのお別れの理由。
「爽ちゃん」
「ん?」
「私、一生独身かもしれない」
「それは困る」
「なんで?」
爽ちゃんはまた小さく息をついて。
「だって里桜の面倒見てくれる人が現れないと、俺が困るもん」
からかうようなその台詞がズキンと胸に刺さる。
「できるだけ、努力はする」
今だって頑張ってるんだ、爽ちゃんは知らないだろうけれど。
「まあ、無理しない程度でね。どうする? 気晴らしにどこか行こか?」
「カラオケ、行きたい! アニソンを思う存分歌いたい! ラブソングなんか、しばらく歌いたくもないよ」
「了解、里桜の気が済むまで付き合うよ」
爽ちゃんは微笑んで、涙で濡れた私の目尻を拭ってくれた。
爽ちゃん、ごめんね。
涙の理由は振られたからじゃないんだ。
本日も曇天、心と同じ色をした雲が嘘つきな私を嘲り笑っていた。
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