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お隣に住む幼馴染の爽ちゃんは、私より数日先に生まれ落ちた。
数日後に生まれたくせに、物心がついた時には既に爽ちゃんを子分のように扱っていた気がする。
男勝りで走り回るのが大好きだった私に、爽ちゃんは嫌がることもなくよく付き合ってくれていた。
昔から優しい爽ちゃん。
本当は、本を読んだりピアノを弾いたりすることが大好きな爽ちゃん。
なのに爽ちゃんのママの主義が『男の子は女の子を守れるくらい強くあれ!』だったから、私に付き合って空手を一緒に習わされていた。
そんな私たちの関係が少し変わってしまったのは、小5の時だった。
◇◇◇
「なんで? 毎週水曜日は探検の日でしょ」
毎週水曜日を探検の日にしたのは、私の一方的なルールだ。
今思えば、小5にもなってそんなことを言っている女子はクラスで私一人ぐらいなものだった。
だからこそ、そんな遊びには誰も付き合ってくれないことも知っている。
そしてそんな私の自由奔放さに、唯一付き合ってくれるのが爽ちゃんだということもわかっていた。
わかっていて、私は爽ちゃんを振り回していたのだ。
「ごめん、里桜。探検するには天気も良くないし、図書館にも行きたいんだ。ずっと行けてなくて」
爽ちゃんが珍しく、私の遊びの誘いを断るから唇を尖らせた。
「じゃあいいよ、一人で行ってくる」
「ダメだって、もうすぐ雨も降って来るしさ。今日は一緒に図書館行かない? で、その後家でおやつ食べてゲームでも」
「もう、いいっ! 爽ちゃんとなんかもう遊んであげない」
まだなにか言いかけていた爽ちゃんの声に背を向けて、踵を返すようにして走り出した。
二人でいつも探検をしていた小さな山に向かって。
今にして思えば無謀だ。
爽ちゃんのバカと悪態をついて、見上げたあの空の色を覚えている。
心細くなるような鉛色の曇天。
バカだったのは私の方だ。
◇◇◇
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