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「ん・・・。 あぁッ!?」
寝ぼけ眼を擦り付けていると、先程起きた記憶が蘇り寝過ごしたと焦ってしまう。 だがどうも様子がおかしい。 いつものベッドの感触とは違うし、見える光景がまるで自室のものとは違った。
―――えっと・・・?
ベッドを見てみるとお姫様が使うような大きくて豪華なベッドで、女の子の夢になりそうな天蓋まで付いている。
「うわッ!? 何このベッド!」
間違えて知らない誰かの部屋で寝てしまったと思い慌てて起き上がる。 だが知らない誰かどころの話ではなく、日本とはまるで思えない部屋の造りなのだ。
「ここはどこ? まさかまだ夢・・・?」
どうしようかと困っているとノックが聞こえてきた。 そこから燕尾服を纏った男性が現れる。
「おはようございます、エイダ様」
―――エイダ様?
愛海にエイダというあだ名が付いているわけはない。
―――エイダって、つい最近どこかで聞いたことがあるような・・・。
「・・・って、エイダって私のこと!?」
「左様でございます。 いかがなさいましたか?」
「あ、いえ・・・」
「朝食の準備はできています。 お着替えを済まされましたら、食堂までいらしてください」
「着替えって?」
「セントイン学園の制服でございますよ」
そう言って部屋に飾られている制服へ視線を向けた。 自分が着ている学校の制服とはまるで違い、まるでアニメの少女が着そうな服だ。
―――セントイン学園。
―――それに、その制服って・・・!
エイダ、セントイン学園、制服のデザイン。 それらには見覚えがあり全てが繋がっていた。
―――ここって、さっきまで遊んでいたアプリの中のまんまじゃん!
―――となるとエイダ様って、悪役令嬢の親友の名前だよね?
―――一体どういうこと!?
執事は深くお辞儀をすると去っていった。 勝手知ったるアプリの中とはいえ、実際に中で動いてみると訳が違う。 屋敷の中をさ迷うように歩き、やっとのことで朝食を済ませると学校へ向かった。
―――これは本当に夢?
―――アプリの中に入っちゃったとか、そういうことはないよね?
―――というか、悪役令嬢の親友ポジとか微妙過ぎ・・・。
―――折角ならヒロインになりたかったなぁ。
―――まぁ、悪役令嬢じゃないだけマシ?
案内を受けていたため学校までの道のりは分かった。 というよりも、家からかなり近い。 近くにいる外国人のような人たちと、違和感満点の日本語で尋ねながら目的地を目指す。
教室への廊下を歩いていると見覚えのある人と遭遇した。 アプリである重要人物の一人、悪役令嬢アンジェその人である。
アプリをやっている時は憎い相手であったわけだが、今の自分はエイダのため親友として仲よくしなければならない。
―――いやはや、まさか彼女と仲よくしないといけない日が来るだなんて・・・。
―――しっかし、アプリが現実になるとこんな感じなんだ?
―――顔が整っていて綺麗ー!
「って、あれ・・・?」
愛海自身でもジロジロと見過ぎているのではないかという程観察し、おかしな点があることに気付いた。 確かに姿格好が悪役令嬢そのままなのだが、髪飾りだけが違う。 似ているが違うことは間違いない。
先程、令奈が付けているのを見たばかりなのだから。
「令奈が付けていた髪飾りじゃん。 似ているけど、どこか違うよね」
「・・・え!? 見た目は全然違うけど、まさか愛海・・・?」
「え、やっぱり令奈なの・・・!?」
―――令奈もこの夢の世界へ来ちゃったの!?
信じられない話だがそうらしい。 愛海は悪役令嬢の親友エイダとして、令奈は悪役令嬢本人アンジェとして。
「ちょ、ちょっと来て! アンジェ!」
「え、何?」
令奈を誰もいないところまで引っ張った。 取り巻きたちはいたが、親友であるエイダには何も言うことはできない。
「そう言えばさ、聞いてよ愛海! 今朝起きたら凄く豪華なベッドで寝ていてさ! 朝食も見たことのない食べ物ばかりだったの! それにね、ベンジャミンっていうカッコ良い人と私は仲がいいらしくて」
楽しそうに起きたことを話す令奈を止めた。 令奈はこの世界の元となるアプリは未経験なのだ。
「令奈、落ち着いて聞いて」
「何?」
「令奈はこの世界が夢だと思ってる?」
「夢? 思うわけないじゃん」
「令奈がここが夢じゃないと言うのなら伝えておく。 ここはアプリの中なの」
「アプリって?」
「さっき私が話したでしょ? 令奈に進めた恋愛アプリの中!」
令奈はその言葉を聞き考えた後に言った。
「・・・そんなの、信じるわけがないよ」
「どうして信じてくれないの? こんな現実があるわけ」
「私は自分の目で見えていることしか信じないの」
そう言って令奈は教室へと行ってしまった。 令奈は信じてくれなかった。 有り得るはずのない世界のことを素直に喜んでいるようだ。
―――どうしよう。
―――どうやって令奈を信じさせよう・・・。
愛海は一人この先の運命を知るものとして困り果てていた。
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