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エイダ視点
馬車に乗った瞬間、ベンジャミンが普通でないことに気付く。 馬車は王子が乗るようなものではなかったし、手錠足かせを嵌められて繋がれてしまったのだ。
「ちょっと、何をするのよ! これからどこへ行く気!?」
「どこへだっていいだろう? もう君たちは逃げられないんだから」
余裕な笑みを浮かべるベンジャミンは、アプリで恋したイケメン王子とはとても思えなかった。
「それにしても、アンジェではなくエイダが怒るとはね。 そんなにアンジェのことが心配だったの?」
「当たり前でしょう! 親友なんだからッ!」
「エイダがいなければ今頃アンジェは・・・」
「・・・何よ」
馬車は採光はできるようになっているが、外の様子が全く見えないようになっている。 どこへ連れていかれるのか分からないというのは非常に怖い。
別荘とは聞いているが、アプリではそもそも別荘など出てこないのだ。 しばらくして馬車が止まり降ろされる。 やはり王族が住まうような豪勢さはなく、簡素な廊下を歩いて地下へと連れていかれた。
地下はまるで監獄のようになっている。 その一番奥に二人は入れられた。
「どうして私たちをこんなところへ入れるのよ!」
「え、何故って、逃げるから・・・?」
逃げるからというだけでこの扱いは明らかに異常だと思った。 それに、ベンジャミンは逃げる理由を知らないはずなのだ。
「逃げるのは当たり前でしょう!?」
「逃げた獲物は捕まえるのが当然だろう?」
「何を話しても無駄・・・。 ちょっと、アンジェも何かを言ってよ!」
先程からずっと黙っているアンジェは辺りを不安気に見回していた。
「アンジェ? どうしたの?」
「ちょっと、ヤバいよ・・・」
怯えているのか声一つ洩らさなかったため気付かなかったが、牢屋には二人以外の女性が何人も囚われていた。 アンジェやエイダのような貴族はいなさそうだったが、美人な女性が多いように思えた。
―――何よ、これ・・・。
―――完全に王子はヤバい人じゃない!
牢屋に入っている二人を満足気に眺めている王子に執事が忠告するよう言った。
「失礼ですが、ベンジャミン王子」
「何だい?」
「アンジェ様のような貴族の娘がいなくなれば、流石に問題になると思われます」
「・・・それは僕も考えていたんだ」
確かに二人の家のことを考えればその通りだ。 国でも有名な二人が突然いなくなって騒ぎにならないはずがない。
「どうなさいますか?」
「・・・あ、そうだ。 いいことを思い付いた!」
「何でございますか?」
「アンジェは死んだことにしよう!」
―――・・・はぁ!?
―――ちょっとアンタは何を言ってんの!?
その言葉に二人に戦慄が走る。
「ヤバいよ。 ヤバいよ、コイツは本当に!」
「・・・見た目に浮かれていた私が馬鹿だった」
「今は反省している場合じゃないでしょ!」
「でも逃げる方法なんて・・・」
ベンジャミンはアンジェが死んだということを伝えにいくために離れていく。 執事も王子に付いていった。 見張りの男が牢屋に厳重に鍵をかける。
「エイダ、どうする?」
「私に聞かれても・・・」
牢屋の鍵が素手で開くはずがなかった。 アンジェの髪飾りを使えばもしかしたら、と考えてみたがそこで落としてしまったことに気付くのだ。
「髪飾り、落としちゃった・・・」
「今はそんなことを気にしている場合じゃないでしょ。 ・・・ねぇ、持ってきた指輪があったわよね? あれで見張りを買収できないかな・・・?」
駄目元で試してみることにした。
「あ、あのー・・・」
「何だ?」
「ここを開けてくださらない?」
「無理な相談だな。 アンタらを出すと俺が責任を取らなきゃならないだろうが」
「もし開けてくれたらこれをあげるけど?」
指輪は金製で赤紫色の宝石が飾られたシンプルなものだが、パッと見でもかなりの値打ちがありそうなものだ。 見張りはそれを見た瞬間目を輝かせる。 これはいける、二人にそう思わせる反応だった。
「ど、どうせ偽物なんだろ? 俺をおちょくろうったってそうはいかねぇ!」
「じゃあ、じっくり見てみる?」
令奈はそういって指輪を渡してしまったのだ。
「ア、アンジェ! どうして渡しちゃうの!?」
「え、だって、偽物じゃないかって言うから・・・」
案の定というか、見張りは指輪を眺めた後にんまりと笑い懐にしまい込んだ。 当然、扉を開ける気配はない。
「ちょっと! 受け取ったんだから開けなさいよ!」
「何の話だ? 俺は取引すると言った記憶はないから、アンタがただくれたっていうだけだろう?」
令奈は声にならない音を出しながら奥へと引っ込んでしまった。 まだ持ってきていたものはあるが、見張りが素直に開けるとは思えなかった。 見張りは椅子に座ると嬉しそうに指輪を眺め始める。
愛海はそれの値打ちは分からないが、余程価値のあるものだったのだろう。 それをタダで渡してしまったことは悔やまれる。 しかし、悪いことばかりではなかったのだ。
「ぎゃッ」
指輪を眺めていた見張りは気付かなかった。 背後から近付いてくる者たちがいたことに。
「え・・・!?」
見張りは頭を殴られ気絶していた。 その向こうから現れたのはボロい服装の女性たちとエミリーだった。
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