乙女ゲームの脇役に転生してしまいました

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エミリーはアプリでの登場人物として見覚えのない見た目の女性である。 だが名前ありということでただの脇役ではないことは明白だった。 庶民で王子を慕う女性はエミリー以外にもいる。  だが名前があるということで、実際にはアプリのヒロインであるということは容易に推測できるはずだった。 ―――エミリーがヒロインなの!? ―――随分と可愛らしい女の子だと思ってはいたけど。 ―――でも、どうしてここへ来たんだろう? ―――もしかして、エミリーも捕まったっていう雰囲気じゃないよね・・・? 女性たちは見張りが保管しているだろう鍵を探している。 その横でエミリーがジッとこちらへ目を向けていた。 その目はキャラクターが捕まったキャラクターを憐れむような目には思えない。  ここにいるのも何か理由があるのだろうと思った。 「エミリー? どうして貴女がこんなところにいるの・・・?」 愛海の質問には答えようとはせず、エミリーは令奈を見て言った。 「令奈」 「え?」 「と、もしかして貴女は愛海?」 「どうして私たちの名前を知ってるの?」 周りの女性たちはよく分からず首を傾げていた。 そのようなことはお構いなしにエミリーは二人にとって衝撃的なことを知らせた。 「はぁー、やっぱりそうなんだ。 私は有紗なんだけど!」 「有紗・・・。 え、あの有紗!? どうしてこんなところに!」 「そりゃあ、アンタたちが捕まっているところを見たからよ。   ベンジャミンとのフラグは何をやっても立たないし、アンジェは何故かヒロインである私に意地悪をしてこないし、何か変だと思ってベンジャミンの後を付けたら、悪事の真っ最中っていう感じだし。   もう訳が分からないけど、とりあえず助けにきた。 感謝してよね?」 「え、うん、ありがとう・・・。 って、そうじゃなくて! 有紗もこの世界に飛ばされていたの?」 「飛ばされたというより、もう現世の私たちは死んでいると思うから転生ね」 あっさりと言うがあまりにも衝撃的過ぎる。 有紗とは朝話して別れて、愛海と令奈は事故に遭ったが彼女も同様だったとは思わなかった。 「朝アンタたちと別れてムシャクシャしながら学校へ向かっていたら、車に轢かれてさ。 しかも、轢き逃げ! 絶対に気付いていたのにスピードを上げていっちゃったっていうね。   ドイツもコイツも、ふざけんじゃないわよって全く・・・」 「・・・もしかして、私たちを轢いたのもその車かも・・・。 赤信号で飛び出たのは悪かったけど、かなりのスピードを出していたみたいだったから」 「うわ、何それ。 いたいけな女子高生三人を轢き殺して逃げたとか、死刑ね、死刑」 「はは・・・」 愛海と令奈を轢いた車が逃げたかどうかは分からなかったが、今はもう気にしても仕方のないことだ。 改めて考えれば残してきた家族のこととか不安にはなったが、それも今考えても仕方のないことだった。 少々落ち込んだ気分になっているうちに令奈が有紗に尋ねかける。 「有紗が本物なら、どうして私たちを助けたのよ・・・。 関係がよくないのに」 「助けちゃ駄目だった?」 「・・・ううん。 助けに来てくれて嬉しかった」 「お礼はいいからさっさとここを抜け出すよ」 有紗は令奈に素直にそう言われ顔を赤くしていた。 もしかしたら本当は仲よくしたかったのではないか、と考えるのは愛海だ。  愛海は有紗もこのアプリが好きだということが分かって、実はかなり嬉しいと思っていた。 シナリオは変わってしまったが、好きなことを共有できるのはそれだけで嬉しいことなのだ。  女性たちが鍵を見つけ、牢屋の鍵を開けていった。 もちろん他の牢屋も同様に、だ。 「有紗がヒロインに転生していただなんてね。 私なんて悪役令嬢ですらなく、ただの親友ポジだっていうのに」 「私が本当はベンジャミン王子と結ばれるはずだったのに・・・」 その言葉を聞いて愛海は頬を膨らます。 「有紗がヒロインとか・・・。 ズルい」 「今はそんなことを言っている場合ではないでしょ? 貴女たちもこの世界のベンジャミン王子が見かけによらず、悪い人だって知っているんでしょ?」 「・・・うん」 「それで? 王子はどこへ行ったの?」 今までのことを全て話した。 王子は今アンジェが死んだことを伝えにいっているはずで、いずれは戻ってくる可能性がある。 「とりあえず王子を何とかしないと、また酷い目に遭わされるかもしれない」 「そうね。 行きましょう」 女性たちも牢屋に捕まっている人たちを全員救出したようだった。 あまりに段取りが良過ぎる気がする。 それを令奈も思ったのか歩きながら有紗に聞いた。 「よく侵入できたね。 そう言えば、あの人たちは誰だったの?」 「あー、何か奴隷のフリをして捕まった家族を助けようとしていたみたいよ。 だから感謝した方がいいわ」 「ありがとうございます!」 このアプリでは大貴族になるアンジェとエイダに大きく頭を下げられ女性たちは驚きを露にしていた。 もちろん彼女たちも救出して終わりではないようで、王子のもとへ一緒に行くことになった。 地下から地上へ、王子の姿をくまなく探す。 そこでエイダがリビングでゆっくりくつろいでいるベンジャミンを発見した。  戻ってくるとばかり思っていたのに、あまりにのんびりしているのは脱走なんてするはずがないと高をくくっていたためだろう。 「君たち! どうしてここにいるんだ!?」 「抜け出したからに決まっているじゃない」 二人の声で王子の居場所が分かった女性たちも駆け寄ってきた、 「ここへ来るまでにすれ違ったこの城の者は全員倒したわ」 エミリーが静かに姿を現した。 「エミリー・・・。 君もそっち側の人間だったとはね」 「ベンジャミン王子とお近付きになりたくて今まで頑張っていましたけど・・・。 全然フラグが立たなくておかしいと思いましたからね」 「フラグ? 何のことだ?」 「最終的にベンジャミン王子は私エミリーと婚姻なさる予定でしたのよ?」 「いや、それは絶対にないと思うけど」 「何ですって!?」 キッパリと王子に否定されたことで有紗は腹を立ててしまったようだ。 「そこまでハッキリと言われるとは何という屈辱! ベンジャミン王子の悪事を暴かせていただきます!」 その宣言の後はとんとん拍子に進んだ。 女性たちと共に大貴族のアンジェとエイダを牢屋に入れたのは流石にマズかったらしい。  既に二人には捜索の手が進んでいて、聞き込みから王子が攫ったのではというところまで突き止めていたのだ。 他の女性たちも当然王子の悪事を全てバラした。  王様は王子がそのようなことをしているとは知らなかったようで、王位継承権をはく奪し実行犯の執事ともども島流しにしてしまったのだ。 「この後はどうするの?」 令奈の疑問に愛海と有紗は答えることができなかった。 もうシナリオは完全に崩壊してしまったのは明白だ。 「まぁ、なるようになるでしょ!」 結局三人は現実に戻ることはできなかったが、いがみ合っていた関係を解消し三人で仲よくこの世界で暮らすことになった。                                -END-
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