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その3
「確かに、”あなた、何か災いがありますよ”って言って、何にも起こらなければ、いかさま預言者になっちゃうよね」
「そうよ。伝えるべきか黙っていようか、いつも迷ってる。だから、いっそ見えないことを願っちゃうのよ」
お母さんは”見える”ことにいつも苦しみ、なるべく目に入らないことを願って、子供の頃の私には、つい”ああいった”言葉を口に出してしまったんだと、その時やっと気づきました。
「瑛子、でもね…、ごくたまあにだけど、凄く強く感じることがあって。そんな時はやっぱり、無視できないのよ。それで、あなたがまだ小さい頃、"あのこと"があって…。それからはもう、見て見ぬふりに徹底するようになって…」
ここで母の顔つきが一気に険しくなったのです。
そして‥、私はその時の出来事を母から聞いて体が凍りつきました…。
...
私がまだ3歳くらいの頃、母は幼い私をおばあちゃんに預け、パート先まで電車で通っていました。
朝の通勤時、いつも同じ車両には30代半ばくらいの会社員風の男性が目に入っていたそうです。
そして、ある日を境に、その”気配”が見えたようなのです。
「最初はほんのぼんやりだったから、見て見ぬふりしていたわ。でも、日増しにはっきりとしてきて…。10日もすると、10Mくらい離れていても胸が苦しくなるほど感じたの。これは生死にかかわることだって、半ば確信に至った。それで、決心したの」
母はもう数日中に何か災いが起きると感じた段階になって、その男性に意を決して話をしたそうなのです。
「もうその時は夕方のS駅のイメージまで浮かんでいたから、思い切って、予知能力のようなものがあると言ってね。S駅で何かの騒動に巻き込まれるかもしれないので、S駅には行かないようにと伝えたわ。幸い、勤務先はS駅を通らないと聞いたから、こちらも言いやすかったし…」
その男性は、母の忠告に気を悪くすることなく、むしろ親切心として聞いてくれたように見えたそうです。
そして…。
「わざわざご親切にって丁寧にお礼を言われたあと、名前まで私に告げたの。永田義男というものですので、名前だけ覚えておいてくださいと…。瑛子、その2日後、永田義男という名前がテレビで流されたのよ」
「!!!」
その後の母の言葉を耳にし、私は慄然となります…。
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