虚構の道

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 二人は、講義開始5分前に教室に到着した。辻島は、講義に間に合ったことより、山岡との漫画の話から逃れられたことに、ホッと胸をなで下ろしていた。どこに座ろうかと少しウロウロしていると、前の方でこちらに手を振っている男が目に入った。谷だ。 「こっち、二人分席空いてるぞ」  谷が声をかけてきたので、辻島と山岡は谷の元に行き、その隣りの席に座った。 「谷はいつも早いよな。何分前に来てるんだ?」  山岡が怪訝な表情で聞く。 「そうだな、10分前には来るようにしている」  谷はいたって真面目に言う。それに山岡は呆れたといわんばかりに、 「はー、お前よくやるわ。こんな朝っぱらから、眠くないのかよ」  この頭の悪そうな返答に、今度は谷が呆れたといった感じで、 「俺は10時には就寝するようにしている。ゆえに、眠いはずがない」  当然だろ、とでも言いたげな態度だ。これに山岡は首をかしげて、 「10時って……。お前ほんとに大学生かよ。今どき中学生でもまだ起きてる時間だぞ?」  と言った。谷は襟を正して、 「早く寝て、早く起きる。これが健康にとって一番良いということは、年齢に関係なく正しいことではないかね?幼い頃は皆それができていたのに、年をとるにつれて成長していくはずの人間が、それができなくなっていくというのは、俺にとっては不思議な話だ」  山岡は、もう声を発しなくなった。あまりの正論に、ぐうの音も出ないのである。今の一連の会話を、傍で聞いていた辻島は、ばかばかしい会話だ、と軽く軽蔑しながらも、話が完全に転換したことについては、深い満足を感じていた。 「これでもう漫画の話はおしまいだ」 心でそう呟くと、漫画ノートを教科書などと一緒に机に出した。 「今日はどんなアイデアが浮かんでくるか」 そんなことを思い浮かべていると、丁度、担当教授が教室に入ってきて、キーンコーンカーンコーンと、チャイムの放送が流れた。今まで騒然としていた教室に、静寂の波が一気に押し寄せた。
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