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昼食の時間になって、辻岡は山岡と学食に入った。谷とはさっきの講義の後に別れた。というのも、谷は法学部なので、さっきのような一般教養の科目の時以外、二人と授業で一緒になることはないのだ。山岡が空いているテーブルを見つけて、二人は荷物を置き、着席した。が、座った矢先に、山岡が、
「やっぱ昼の学食は混むよなあ。今のうちに買ってこよ」
と言って立ち上がり、券売機に行こうとしたので、
「あ、じゃあ僕も」
と、辻島も立ち上がろうとした。すると、
「それなら、金渡すから俺の分も頼むわ。俺は留守番しとくから」
と、山岡は再度、椅子に腰を下ろした。その様子を見た辻島は、ことさらに眉間にしわを寄せて、
「またかよ、2つ持つの面倒なんだぞ。この前だって、こぼしそうになったのに」
と反論した。すると山岡は、
「お前、何頼むんだ?」
と辻岡の目を捉えて言った。
「え……、いつもの、そばだけど」
辻島は、少しまごついた。フン、と山岡は鼻で笑って、
「あのクソまずい130円のそばだろ?あんなの毎回単品で頼んでたら、厨房のおばちゃんに笑われるぞ。目の前じゃなくたって、裏でよ。評判悪いぞー。でも、俺のからマヨ丼と一緒に頼めば、お前は変に思われずに済むんだぜ。かけそば一つに、唐揚げ丼が一つ。なんの変哲もない一般的な大学生の昼食だ。ちょっとの労働でそんな憂き目に遭わずに済むんなら、むしろお得だとは思わないか?」
山岡はニコニコ笑っている。自分の理屈に満足しているような表情だ。辻島はしばらく押し黙っていたが、口を開いて、
「確かに……、それも一理あるかもしれない」
と弱々しい声で呟いた。それを聞き逃さなかった山岡は、
「そうだろ?これはお前のためでもあるんだ。俺は動かずに済むし、お前は恥をかかずに済む。すなわち、ウィンウィンってわけだ」
ピンと人差し指を立てて、得意そうに言った。辻島はなおも押し黙っているので、山岡は業を煮やして、
「はい、じゃあそういうことで。人生において、優柔不断が一番ダメなんだ。早く行かないと、人が来ちまう。さ、これで頼むぞ」
そう言うと、強引に辻島の手を取って、ぽんとその手のひらに千円札を一枚乗せた。辻島は諦めたように、はあーと大きなため息をついて、トボトボと券売機に歩み寄って行った。すると背後から、
「おい、おつり猫ばばすんなよ」
という山岡のチャラけた声が、辻島の耳奥深くに入った。
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