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大学を出た頃にはもう辺りは暗くなっていた。辻島は、近くのスーパーで買った3割引の唐揚げ弁当を袋に下げて、帰路を歩いている。
「今日は、何も思いつかなかったなあ」
手の袋をブラブラさせながら考える。なぜ自分はこんなにも話を作れないのか。描きたいものはちゃんと頭にあるはずなのに、あんまり奥深くにあるので、どうにも手が届かず、取り出すことができないもどかしさ。言語化できないのは、自分の語彙力が貧弱なためなのか。それとも、気持ちに言葉を当てはめていく作業が下手なのか。よくわからない。あるいは、そもそも物語を作る上で必須の「想像力」が欠如しているのではないか……。ストーリーのことを考えると、いつもそんな考えに行き着いて、あとは、「自分なんて……」という落胆が待っている。そんな堂々巡りを、もう何度も経験しているはずなのに、どうしても、そこから抜け出すことができない。結局は、頭を掻きむしって、無理にでも注意をよそへ向けて、気が晴れるのを待つだけだというのに。辻島は、もういい加減そんな自分が嫌で仕方なかった。が、どうすることもできないので、袋をブラブラさせるスピードを、ただ速めるしかないのである。
「やっぱり、僕には才能がないのかなあ」
不機嫌な気持ちで自室に着いて、ホッと一息、袋の中身を取り出すと、弁当の中の唐揚げが、弁当の中であちらこちらに飛び散っていた。辻島は、はあーとため息をつき、バタッと万年床に突っ伏して、しばらくじっとしていた。何もかも、嫌になってきた。そのうち、
「グー」
という、なんとも情けない音が腹の底から聞こえてきたので、仕方なくむくりと起きた。そして、振り回されてぐちゃぐちゃになったその弁当を、ちょっとずつつまみだした。
「わびしさとは、こういう心境のことをいうのだろうか」
ふいにそんな言葉が口をついで出た。これに辻島はハッとした。自分にも、こんな風流なことが言えるのだと思うと、少し元気が湧いたのである。
「まだ、捨てたもんでもないかもしれない」
そんなことを思って、ふふ、と自然に笑みがこぼれた。目の前の汚い弁当に視線を戻すと、それまで食欲をあまりそそらなかった食べ物が、妙に魅力的に見え、一口、唐揚げのかけらを口に運ぶと、割り箸を持つ手が止まらなくなった。このように食べ物を腹にかきこんでいる時が、最近の辻島の悩みを忘れられる数少ないひとときなのである。
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