虚構の道

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食事が終わると、辻島は勉強机に置いてあるタブレットとタッチペンに手を伸ばした。辻島は、ノートに書いたりするいわゆる「アナログ」な書き方もするが、メインはこの「デジタル」機器での執筆である。修正がききやすいし、背景や効果など、手書きだと何時間もかかるようなことが、かなり短縮できるということで、大学進学を機に、高校のときに親に内緒で買ったのだ。家ではほとんど、これを使って執筆をする。ただ今日は、もう創造することに疲れていたので、すでに完成している作品の手直しをすることにした。改めて、自分の作った漫画を読み返してみると、 「うん、確かに、メリハリはない……」  これなら周りがつまらないというのも頷ける。話の流れが、ほとんど波打つことなく、ただまっすぐに進んでいって、気づいたら、ゴール。そのトラックには、コーナーもなければ、ハードルもない、ただの直線。しかも、話の内容自体が、とある文学青年が恋に悩んでウジウジする、とか、恋人にフラれて立ち直るまで懊悩する、とか、全く話に疾走感や爽快感がないものばかりだから、直線的なストーリーの流れが、良い方向に活きることなどもない。 「でも……こんな作品でも、良い所が全くないわけじゃない。きっと人によっては、こんな暗い話でも、救いになることがあるんじゃないかな」  そう暗くなりかけていた自分のことを、叱咤激励、奮い立たせて、ペンを握り、サー、サー、と気に入らないシーンを修正していく。辻島は、ああでもない、こうでもない、と没頭すれば他に何も見えなくなるタイプの性格で、この日も、彼の集中力が途切れて、ふと寝床の目覚まし時計に目をやると、すでに深夜の2時を回っていた。こうして今日もまた、彼の夜更かしは見事に遂行されるのである。そして彼は決まって、 「またやっちまった」  と呟き、空いている方の手を頭に持っていって、「失敗」のポーズを取るのである。
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