花の国

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◇ ◇ ◇  Rという国で、花が一輪、管理されていた。  その花は蕾の状態で、しかも凍らされている。  花の管理者である男、スーニは、今日も冷凍装置の状態と花の具合を見る。  大掛かりな装置が設えられた、分厚い壁に囲まれた暗い部屋。その向こう側、壁と同じく分厚いガラス越しに、白い霜を纏った花がある。  床は剥き出しの地面で、花はそこから真っ直ぐ生えている。電灯ひとつに上から皓々と照らされているそれは、閉鎖寸前の小さな劇場でスポットライトを浴びる俳優のようでもある。 「今日も、異常なし」  だがスーニは、退屈そうにボソリと呟くだけだ。  もう十数年は、毎日同じ光景を見ている。就いた初日から、彼はこの仕事に飽き飽きしていた。  ある日、滅多に鳴らない電話が鳴った。 「はい」 「国土保全省のテンジョーだ。花の管理者だな」 「そうですが」 「突然だが、花の管理はやめることになった」 「どういうことですか?」  突然の通達にスーニは驚いたが、テンジョーの説明を聞くと納得した。  花は、建国以来150年以上ものあいだ管理されているが、乗っ取りで建国したため、前身国の遺物であるそれについては何の詳細も記録も残っていないということ。  そんな管理の理由も何もわからない花一輪に、このまま莫大な費用をかけていられないこと。  そして、管理人としての業務は終了するが、別の仕事を用意してもらえること。  最後の話について聞いた時には、スーニは飛び上がって喜びそうになった。彼にとって、花の行く末はどうでも良かった。 「では、1ヶ月後が最後の就業日となる。それまでに、荷物などをまとめておくように。出る際には、冷凍装置を切るのを忘れずにな」  テンジョーの指示に了承の意を唱えると、スーニは受話器を置いた。 「これで、退屈な日々から抜け出せる」  スーニは、ガラスの向こうを見やると、ニヤリと笑みを浮かべた。  花は、いつもと変わらない様子でそこに佇んでいる――。
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