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そうして、1ヶ月が経った。
シイナは冷凍装置の前に立ち、ちらりと横目でガラスの向こうを見る。いつもと変わらない花の姿がそこにある。
「今日でお別れだな」
晴れやかにシイナは呟く。だが、どこか少しだけ後ろ髪を引かれる思いもあった。
そこで、ふとした考えが頭をよぎった。
この花は、咲いたらどんな風になるのだろう? と。
単なる好奇心。だが、今まで考えたことがなかったそれは、彼の中で急速に膨れ上がっていった。
「……どうせ今日までなら、早めに装置を切っても問題ない、よな?」
確認する相手などいないのに、シイナは口に出して問うた。
自問自答で出した答えを実行に移すべく、冷凍装置の電源に手をかける。
一瞬の躊躇の後、ガシャン、と音を立て、電源のレバーを下げた。装置の駆動音が止み、静寂が押し寄せる。
「……あと、8時間」
それまでに咲くのだろうか。
ずっと凍らされていたのだから、そもそも咲くわけがないのだろうか。
咲かなければ、それはそれで別に構わないが……。
そんなことを考えつつも、シイナは淡い期待を抱いていた。
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