花の国

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 そうして、1ヶ月が経った。  シイナは冷凍装置の前に立ち、ちらりと横目でガラスの向こうを見る。いつもと変わらない花の姿がそこにある。 「今日でお別れだな」  晴れやかにシイナは呟く。だが、どこか少しだけ後ろ髪を引かれる思いもあった。  そこで、ふとした考えが頭をよぎった。  この花は、咲いたらどんな風になるのだろう? と。  単なる好奇心。だが、今まで考えたことがなかったそれは、彼の中で急速に膨れ上がっていった。 「……どうせ今日までなら、早めに装置を切っても問題ない、よな?」  確認する相手などいないのに、シイナは口に出して問うた。  自問自答で出した答えを実行に移すべく、冷凍装置の電源に手をかける。  一瞬の躊躇の後、ガシャン、と音を立て、電源のレバーを下げた。装置の駆動音が止み、静寂が押し寄せる。 「……あと、8時間」  それまでに咲くのだろうか。  ずっと凍らされていたのだから、そもそも咲くわけがないのだろうか。  咲かなければ、それはそれで別に構わないが……。  そんなことを考えつつも、シイナは淡い期待を(いだ)いていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加