0人が本棚に入れています
本棚に追加
変化は、4時間ほど経った頃に表れた。蕾が膨らみ始めたのだ。
目を凝らしてみると、固く閉じられていた萼が僅かに解れ、その隙間から白色が覗いている。どうやら、花弁は白らしい。
「そのまま開いてくれよ」
いつの間にか、シイナの期待ははっきりと形を成していた。
そのまま時が進むのに合わせ花は順調に開いていき、8時間が経過した。
花は、満開になった。
「こんな花だったんだな……」
呟きながら、なんと美しいのかと、シイナの目は釘付けになった。
百合を思わせるような大輪の花は、150年の眠りを微塵も感じさせず、麗しい様相を見せていた。
冷気の名残の水滴がポツポツと散りばめられ、照明がそれをキラキラと輝かせる。まるで美しく着飾った麗人のようであった。
見知らぬ花の艷やかな姿に、シイナはすっかり魅入ってしまった。
もっと近くで見てみよう……。
シイナは、花が待つ部屋のドアノブに手を掛けた。鍵がかかっている。
舌打ちをし、自身の腰に下げている鍵の束を手に持つ。鍵の数は少ないうえ、今まで使ったことがないもののため見つけるのは容易いが、阻まれる感覚にシイナは苛立った。
逸る気持ちで解錠し、ドアを開ける。
途端、ぶわりと、強い香りが一気に鼻孔をついた。花の香りだというのは、疑いようがなかった。
一瞬、眩暈を覚えたが、構わずそのままふらふらと部屋の中に入る。
凛とした立ち姿。甘やかな香り。
シイナの目には、抗いようのない魅力を持った女性が映っていた。
最初のコメントを投稿しよう!