花の国

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 変化は、4時間ほど経った頃に表れた。蕾が膨らみ始めたのだ。  目を凝らしてみると、固く閉じられていた(がく)が僅かに(ほぐ)れ、その隙間から白色が覗いている。どうやら、花弁は白らしい。 「そのまま開いてくれよ」  いつの間にか、シイナの期待ははっきりと形を成していた。  そのまま時が進むのに合わせ花は順調に開いていき、8時間が経過した。  花は、満開になった。 「こんな花だったんだな……」  呟きながら、なんと美しいのかと、シイナの目は釘付けになった。  百合を思わせるような大輪の花は、150年の眠りを微塵も感じさせず、麗しい様相を見せていた。  冷気の名残の水滴がポツポツと散りばめられ、照明がそれをキラキラと輝かせる。まるで美しく着飾った麗人のようであった。  見知らぬ花の(つや)やかな姿に、シイナはすっかり魅入ってしまった。  もっと近くで見てみよう……。  シイナは、花が待つ部屋のドアノブに手を掛けた。鍵がかかっている。  舌打ちをし、自身の腰に下げている鍵の束を手に持つ。鍵の数は少ないうえ、今まで使ったことがないもののため見つけるのは容易いが、阻まれる感覚にシイナは苛立った。  (はや)る気持ちで解錠し、ドアを開ける。  途端、ぶわりと、強い香りが一気に鼻孔をついた。花の香りだというのは、疑いようがなかった。  一瞬、眩暈を覚えたが、構わずそのままふらふらと部屋の中に入る。  凛とした立ち姿。甘やかな香り。  シイナの目には、抗いようのない魅力を持った女性が映っていた。
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